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スペシャルレポート 2016 Vol.02 小説でしか表現できなかった もうひとつの『君の名は。』とは

小説でしか表現できなかった
もうひとつの『君の名は。』とは

――新海誠インタビュー(後編)

 8月26日に公開された、新海誠監督による新作アニメーション映画『君の名は。』。観客動員は1354万人、興行収入は176億円を超え、全国映画動員ランキングトップで9週連続第1位(映画関連のデータはすべて11月3日時点)という2016年を代表する大ヒット作品となった。さらには、スペインで行われた第49回「シッチェス・カタロニア国際映画祭」で最優秀長編作品賞を受賞するなど、はやくも世界にその名を響き渡らせている。惜しくも映画はSUGOI JAPAN Award2017・アニメ部門の対象期間外(※)なのだが、6月に刊行された、監督みずから書き下ろしの『小説 君の名は。』がエンタメ小説部門にノミネート。映画公開前ですでに50万部を売り上げ、公開後に130万部を突破した本書は「小説にしかできない表現」にこだわり抜いた新海氏によるもうひとつの新作だ。
 ノミネートを記念し、“小説家”新海誠のインタビューを2回にわたり掲載。前編にあたる今回は、小説を書いたことで映画に与えた影響と、小説でしか表現できないものについてお話をうかがった。

※アニメ部門の対象期間は、2015年7月1日~2016年7月31日のため、2016年8月26日公開の映画『君の名は。』はアニメ部門では対象期間外となった。

音楽のように誰かの心に響きわたる表現で、
作品を生み出し、これからも届けていきたい

音楽に憧れ、歌詞を書くようにモノローグを紡ぎだす

――今回、映画の楽曲を担当したRADWIMPSの歌詞の世界が小説にも影響を及ぼしたということですが、具体的にはどういったところでしょう。

新海 「この映画は完成する」と確信できたのは、『なんでもないや』という歌をもらった瞬間でした。ぼくはこれまで、明確なハッピーエンドの物語を上手につくることができませんでした。大切なたったひとりに出会うことができたらそれはとても幸せなことだけど、現実には叶わないことが多いから、出会えなかったときのことを描くことが多かったんです。だから『君の名は。』をハッピーエンドにすることにも、当初、少し戸惑いがあったんですが、脚本を読んだ(野田)洋次郎さんが紡いでくれた“もう少しだけでいい あと少しだけでいい もう少しだけ くっついていようか”という歌詞を見たとき、この映画を“出会うことのできる物語”にしていいのだと思うことができました。
 もう少しだけ、あと少しだけ。その言葉には、いつか別離が訪れる可能性も含まれています。ずっと一緒にはいられないかもしれない、だけどもしかしたら一生一緒にいられるかもしれない。おそれや期待を内包しながら“もう少しだけ”を積み上げていく、そんな未来だったら信じられるかもしれないと。映画の先に訪れるあらゆる展開を、この曲の歌詞が示してくれた気がしたんです。
 音楽ってやっぱりすごい、と感じました。メロディとともに言葉が頭の中に住み続けてしまう強さがある。ぼくには昔から音楽そのものに対する憧れがあるので、同じことはできないかもしれないけれど、音楽に近い表現を生み出したいとはいつも切実に思っています。

――和歌や古典文学をモチーフにされることが多いのも、同じ憧憬を抱いているからでしょうか。

新海 そうですね。限られた文字数の中でこれほど世界を膨らませることができるというのは、日本語が豊かである証のように思います。もっとも、英語にも詩や歌はあるので、言語の本来的な豊かさというべきかもしれませんが、古来、連綿と引き継がれている表現を、ぼくも作品で成したいのです。1本のアニメーション映画が抱える情報量は、和歌のそれに比べるとずいぶんと膨大ですし、メディアとしては対極にあると思うのですが、限られた言葉で喚起される感情や情景の豊富さを作品にとり入れることができれば、観客に、実際に提供しているものよりはるかに広く深い世界を受け取ってもらえるんじゃないかという期待がありますね。

――本作で、音楽的手法をとり入れたところはありますか。

新海 映画の冒頭にある“朝、目が覚めるとなぜか泣いている。そういうことが時々ある”というモノローグは、歌詞のつもりで書きました。もともと、モノローグは音符を譜面に起こす感覚で書いているんです。もちろん、役者さんの提示したリズムが想定していたものよりもよかった、ということもあるのでその場合は採用しますが、句読点や息継ぎの位置はもちろん、リズムやスピード感もわりと細かく指示させてもらっています。それは小説も同じで、常に頭の中で読みながら、自分が心地よいと思えるリズムをいつも探しています。

――モノローグは、新海作品における特徴のひとつですが、アニメーション制作を始めた初期の頃から、意識的にこだわっていたのでしょうか。

新海 アマチュア時代につくった『彼女と彼女の猫』や商業デビュー作の『ほしのこえ』はモノローグの塊みたいなものでしたが、自分にはそれしかできないのだという自覚が強くあったのだと思います。躍動感溢れるアニメも、頭にこびりつくような音楽も、あの頃のぼくはつくれなかった。だからこそ、自分が勝負できるポイントだけに絞ってやっていこうと。初期の作品であればあるほど、その想いは強かったですね。

――そこから作品を重ねて進化した本作は、映画と小説、そして音楽という3つのメディアが折り重なり、メディアミックスとはなにかを大きく体現しています。

新海 そうですね。今回、RADWIMPSと組んで仕事をしたことは、単純なタイアップではありません。映画と小説、そして音楽という3つのメディアが作品の本質を共有し、少しずつ違う表現をほどこしながら、それぞれ『君の名は。』という作品をつくりあげたのだと思っています。
 もちろん小説が126万部も売れたのは、映画との相乗効果があったから。ぼくが小説家としての評価をいただけたとか、売れる小説を書けたという気持ちは正直ほとんどありません。ですが、小説は小説として楽しんでいただけるように別個の作品としてつくりあげましたし、映像ができあがっているからといって、小説表現を簡易にしたり映画に頼ろうなどとはまったく思いませんでした。それはRADWIMPSをはじめ、関わった制作スタッフ全員が同じ気持ちで、誰も「映画に頼った」物作りはしなかったんです。舞台挨拶の初日を終えたあと、プロデューサーの川村元気さんと話したのが「制作はつらかったけど、誰もズルをしなかったよね」ということでした。作業はとても大変だったけれど、歌も、絵づくりも、小説も、関わった全員が最初から最後まで出来ることを尽くしてやりきった。もしかしたらその想いが、観客や読者のみなさんに伝わったのかもしれないなと思います。

作品を求めてくれる人たちの、本気の想いに応えたい

――映画はすでに海外の映画祭でも上映されていますが、反響はいかがでしょうか。

新海 個人の意見を聞いたわけではないのですが、全体的に楽しんでくれているのは感じます。賞をいただいたスペインのシッチェスをはじめ、ロサンゼルスや釜山、ロンドンなどでの上映会に参加しましたが、欧米の観客は日本人よりも反応がビビッドですね。「オーマイゴッド!」と叫んだり、ひとつひとつのシーンで声をあげてくれるなかで一緒に作品を観られたのはうれしかったです。
 とくにロサンゼルスの上映会は、映画祭ではなく、『秒速5センチメートル』のころから十年来のファンだという方々が3400人集まってくれたので、かなり濃密な場でした。上映後のティーチインで「ぼくは死のうと思っていたんだけど、あなたの映画を観てもうちょっと生きようと思った」と泣きながら言ってくれる人がいたりして。「この作品をつくってくれてありがとう」とか「You’re my hero.」という言葉をいただけたのが本当に印象深かったです。それは日本人のファンの方々にいただく言葉とほとんど同じで、どこの国でも感じ方は変わらないのだということも知りました。もちろんそれは、とくに深い部分に刺さってくれた一部の方々だとは思いますが、自分の生き死にに関わるような本気の想いでアニメーション映画を観てくれている人がいる、ということに励まされました。当たり前のことですが、こちらも本気でつくるべきだとあらためて思いました。現在、小説の翻訳も各国から多数のオファーをいただいているので、実現したら読者の声を聞いてみたいですね。

――ちなみに、今回はじめて映画制作と小説執筆を同時進行されたわけですが、今後、先に小説を発表するという可能性はあるのでしょうか。

新海 それもなくはない……とは思うのですが、監督としての立場で考えると難しいところです。今回の小説を2ヶ月半で書き上げられたのは、先に映画の作品世界ができあがっていたから。もしゼロから生み出そうとすると、最低でも半年はかかってしまう。そうすると、次の映画をリリースするまでにはさらに長い年月をかけることになる。観客に作品を届けるペースが遅くなるのは怖いですし、だとしたらやはり、まず映像制作が走り出してから小説のことを考えるほうがいいのでしょう。ただ、できるかできないかは別として、いつか映像とは関係のない小説を書いてみたいですね。

――2002年、東京・下北沢トリウッドで『ほしのこえ』を上映したときに観客からもらった拍手の残響を今も追いかけているような気がすると、以前、テレビ番組『SWITCHインタビュー 達人達』でおっしゃっていましたが、その拍手の音は国境を越えて、どんどん、大きくなっていますね。

新海 残響を追いかけるような気持ちは確かにずっとあるのですが、だからといってそれが特別なことだとは思っていないんです。誰だって、それぞれが追い求めている何かを本気で追いかけ続けています。ぼく以外のアニメーション監督や、作家さん、すべての制作者は同じ想いを抱いているでしょう。やっていることはきっと、ぼくもほかの誰かも変わらない。変わらないままぼくは、ぼくの作品をこれからも生み出していきたいと思います。

(2016年10月4日、東宝本社にて/取材・文=立花もも、撮影=冨永智子)

PROFILE

新海誠しんかい・まこと

1973年、長野県生まれ。アニメーション監督・小説家。2002年、個人で制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。以降『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』など次々と作品を発表し、次世代の監督として国内外で高い評価と支持を受けている。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年『言の葉の庭』が全国公開され、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。新作映画『君の名は。』は、2016年11月3日時点で観客動員1354万人、興行収入は176億円を超え、全国映画動員ランキングで9週連続第1位に。映画公開前に50万部を超えた『小説 君の名は。』は130万部を突破。10月には、スペインで行われた第49回「シッチェス・カタロニア国際映画祭」で最優秀長編作品賞を受賞。第60回「BFIロンドン映画祭」では、長編アニメーション映画として史上初の「Official Competition」ノミネートを果たした。

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