スペシャルレポート Vol.17 キャラクターの力で創る新たな英雄譚『七つの大罪』鈴木央

 シリーズ累計850万部を突破し、現在アニメも放映中のマンガ『七つの大罪』。王国転覆をはかったとされ指名手配されている最強最悪の騎士団〈七つの大罪〉の団長・メリオダスと、真の悪は聖騎士のほうだと気づいた王女エリザベスが、仲間を集めながら王国を救うために起ちあがるヒロイック・ファンタジーだ。“アーサー王の伝説”を下敷きにしながらも、まるで新しい世界観と物語を紡ぎだす本作は、息継ぐ間もない怒涛の展開で読者を飽きさせることなく惹きつけ続けている。その物語はどこから生まれるのか。著者・鈴木央さんにお話をうかがった。

日本のマンガの魅力は“キャラクターの幅広さ”

――『七つの大罪』は「アーサー王の伝説」をモチーフにされていることもあり、海外の方にもなじみやすい作品なのではないかと思いますが、そのあたりは意識されていますか。


鈴木 特別に意識はしていません。基本はやはり、『週刊少年マガジン』の読者に向けて描いているので、まずは彼らに楽しんでもらいたいというのが常に念頭にあります。ただ、年齢だけでなく国境の壁も含めて、間口の広いマンガにはなったかなと思っています。連載を始める際に想定していたターゲットが、中高生というよりも子供と中高年だったんですよ。小さい子供でも読むことができるわかりやすさと面白さがあり、かつ普段はファンタジーになじみのないお父さん世代でも楽しめるものを目指したいと。ですからファンタジーではあるものの、極力専門用語やオリジナル用語を使わないようにしています。それにくわえて題材が「アーサー王」なので、結果的に、ほかの国の方々が読んでもすんなりなじみやすいものになったのではないかと思います。『七つの大罪』はアジア各国からドイツ、フランス、イタリアでも翻訳出版されていますし、アメリカのクランチロールというサイトで毎週更新されている(http://www.crunchyroll.com/)のですが、おおむね好意的なご意見をいただいているので嬉しく思っています。


――具体的にはどのような反応がありましたか。


鈴木 アメリカの読者たちからのメッセージを拝見したのですが、〈七つの大罪〉メンバーのことをそれぞれ気に入ってくださっているみたいですね。あの中だとバンがアメリカ人ウケするのかな、と思っていたんですが、メリオダスやホークも人気みたいです。「あんなにAmazingな豚はいません!」という声もいただいています(笑)。ぼく自身、ホークは好きなんですけどね、描きやすくて(笑)。忙しい時期に、画面にホークがたくさん登場する回があたったりすると、とても助かります。


――ご自身の作品を含め、日本のマンガやアニメが世界中で注目を浴びるのは、どういうところに魅力があるからだと思いますか。


鈴木 ひとつには、キャラクターの幅が広いからじゃないかと思います。アメリカのマンガをすべて熟読しているわけではないので、断定的なことは言えないのですが、たとえばマーベル・コミックスをはじめとするアメリカのヒーローマンガの主人公は、みんな筋骨隆々とした男らしい男、とある程度の基本イメージがかたまっていますよね。だけど本当はもっと違うものを読みたいし見たい、と思っている方もきっといるはずで、そういう方々の需要を満たしてくれるものが日本のマンガ・アニメにはあるんだと思います。日本の作品では、ヒーローだからといって必ずしも強い男とは限らないし、そもそも主人公は子供から大人まで男女関係なくバリエーション豊かに存在していますから。


――だからこそ『七つの大罪』においても、一見アメリカ的に見えるバンだけでなく「メリオダスも好き」「キングも好き」というように多くの海外読者たちが心をつかまれているんですね。


鈴木 そうかもしれません。それからもうひとつは繊細さですね。アメコミというのは非常に豪快なのですが、豪快であるがゆえに細かなシーンが大雑把だったりもします。たとえば誰かが死んだとき、日本の作品であればそのことだけで長尺を割きますが、ハリウッド映画だと、その直前までどんなに仲良く会話していたとしてもあっさり打ち捨てて次のシーンにいっちゃうんですよ。バトルになった瞬間、キャラクターが「駒」になるんです。一人ひとりの物語よりも、全体としてどれだけ生き残って敵を倒せるか、のほうが重視されることが多い。日本の場合は、「死んだあいつのために」というふうに、個人的な感情が戦いの中でも強く描かれることが多いですよね。そういった感覚の違いも新鮮な魅力として映っているんじゃないでしょうか。


――『七つの大罪』でも、そういった細部が丁寧に描かれ、キャラクターたちの魅力を増していますね。


鈴木 ただぼくは、もともと“キャラクターを描く”ということはどういうことなのか、よくわかっていなかったんですよ。新人時代、ファンタジーばかり描こうとしていたころは、ただひたすらコマを割って、自分の考えた特殊な世界を主人公が動き回るだけだった。担当さんに「キャラクターが作れていない。ファンタジーはやめたほうがいいんじゃないか」と言われたときも、それがどういうことなのかまるでわからなかったんです。それから10年以上、ファンタジーから離れたジャンルでマンガを描き続けてきて、ようやく“魅力的なキャラクター”というのがどういうものかつかめるようになってきました。そんなときに今の担当さんから「今こそファンタジーを描いてみませんか」と言われたんです。


キャラクターがつくれて初めて描けたファンタジー

鈴木 新人というのはとかくファンタジーを描きがちなんですよ。なぜなら自分だけの用語を駆使してつくりあげたストーリーや世界観は、“オリジナル”を表現するのにとても適しているから。そうした設定は、小さい子供でもやろうと思えば作れるんです。ですがキャラクター作りはそう簡単にはいきません。ぼくも、最初に指摘されたころは、「熱血とかクールとかそういうことですか」なんて言っていて、「そうじゃない。人間を描けないといけないんだ」と言われても全然ぴんときませんでした。人生経験が未熟だったんですね。ただ一言で熱血といっても、静かに燃えるタイプもいれば、まわりに発散するようなタイプもいるということがわからなかった。今は、なにか物事が起こったときにそのキャラクターがどういう反応をするのか、読者がきちんと想像することができるかどうか、そしてぼく自身もそれを知っているかどうか、というのが大事なんだと思っています。


――それはどのようにして身についていったのでしょう。


鈴木 人と会うことです。出版社の人にしろ友達にしろ、いろいろな人に会うというのが一番大きかったですね。あの人にこういうことを言ったら怒るよなとか、これをしたらこういう反応が返ってくるだろうな、という日常生活での人間づきあいにおける想像力が、自然とマンガにも反映されていきました。人と出会い、知ることはとても大事です。次に、映画を週に1本、なるべく好き嫌いのジャンルをつくらずに観るようにしているので、それも勉強にはなっているんじゃないかな。あとは、これまでずっとスポーツものだったり学園ものだったり、現代を舞台にしたマンガばかり描いてきたので、おのずと“キャラクター性”を考えるようになりました。ファンタジーと違って、ごく普通のありきたりの場所を舞台にする以上は、キャラクターにより細やかで、かつ効果的な差異をつけなきゃいけなくなりますから。


――そうして培った経験と技術をもとに、満を持してのファンタジーマンガ連載となったわけですね。


鈴木 でも実は、今どうしてもファンタジーを描きたいとは思っていなかったんです。キャラクターというものをつかめてきた実感はありましたし、今なら描けるんじゃないかという予感もありはしましたけど、現代を舞台に描くことがとても楽しくなってきていたので「別にファンタジーじゃなくてもいいじゃん」と興味を失っていました。新人時代、ファンタジーにこだわっていたのも「何も描けないからファンタジーを選んでいたんだ」ということに気づかされてもいたんです。スポーツものだったり、なにか現代にある“もの”を題材に選ぶときは下調べも必要だし、先に言ったとおりキャラクターの力も必要になる。ある意味で逃げていたんだな、とあとあと思いました。でも担当さんが「今だから描いてほしい」と言ってくださって、「ああ、そうか」と思って、始めたのが『七つの大罪』だったんです。今でもあまりファンタジーを描いているつもりはなくて、メリオダスをはじめとするこのキャラクターたちを動かしたら何が起こるかな、というのをつくりあげている感覚です。それこそファンタジーでなくても、彼らを使ってスポーツものを描こうと思ってもできるくらいのものにしようと。だから正直、最近は、描くときはあまりストーリーを考えないようにしてるんですよね。


――かなり伏線も細やかに張られていて、二転三転する物語も非常に密度の高いものなので、「ストーリーを考えない」というのは意外な気がします。


鈴木 もちろん大筋を考えてはいますし、エンディングも決めてはいますが、それまでの道程はどういうキャラクターを出すかによっては変わってきますからね。話をきっちり決めてしまうと、どうしても予定調和になってしまいます。読者にも透けて見えてしまうんじゃないかとも思うので。「このキャラクターはこういう奴」というのが明確にあるので、なにも考えずに描いていたつもりでも、あとあと読み返してみると一貫している。「ああ、こういうことだったんだ」と自分で気づくこともありますね(笑)。そういう意味で、非常にキャラクターありきのマンガなんです。


「アーサー王といえば『七つの大罪』」となるように

――『ライジングインパクト』のころからアーサー王伝説をモチーフにはされていましたが、アーサー王ではなく〈七つの大罪〉を主人公にしようと思ったのはどういうきっかけなんですか。


鈴木 モチーフやタイトルをどうしようかと考えたときに、ぱっと耳に残るものがいいなと思ったんです。聞いたことはあるけど詳しくは知らない、でもなんとなくは知っている、というようなものにしたいなと思ったときに、“七つの大罪”はぴったりだな、と。“七つの大罪”というのはもともとキリスト教の概念で、アーサー王伝説もキリスト教がずいぶんと絡んだ話なんですが、あくまでもぼくが用いるのはモチーフとしてであって、宗教的なものは排除しています。そのうえで、メリオダスという伝説上ではマイナーな主人公を軸にして物語を作っていって、いつか本筋のほうをやりたいなと。『七つの大罪』は『スターウォーズ』でいうダース・ベイダー編みたいなものなので、壮大な前日譚なんです。


――アーサー王伝説を知っていると、その“本筋”もより気になりますね。実際、『七つの大罪』でもアーサー王が登場してきましたし。ですが読むたびに展開を裏切られていくので、まったく先が読めず気も抜けません。


鈴木 “驚かせ”はぼくがいちばん重視しているものです。何もない回というのが、自分で描いていてもすごくつまらないんですよ。担当さんに「今回はいい話だったね」と言われて終わるのでは物足りない。まずは、最初の読者である担当さんに、毎回、「えっ、これどうなっていくんですか?」と言わせるようにしています。週刊連載を楽しみにしてくれている読者が「次の週が待ちきれない!」と思ってくれるものを描きたいんですよ。なんとなくよかった、だけでは、翌週に読むのを忘れられてしまうかもしれない。「きっとこうなるよな」とか「こいつはこうするに決まってるよ」というような固定観念をひっくり返したいんです。まあ、「どうなっていくんですか?」と聞かれても、ぼく自身わかってないときもけっこうあるんですけどね(笑)。だけど「驚いたけど、こいつだったらこうするかもしれないな」という説得力は持たせられるようにしています。キャラクターたちが生きているからこそ、展開はいかようにも動かしていけるんです。


――実際、自分でも予想外に動いた場面というのはありますか?


鈴木 場面というか、ディアンヌを出したときは「えっ、大きい女の子!?」と少し揉めました(笑)。もともとバンを先に出すかディアンヌを先に出すか迷っていたんですよ。そんなとき、担当さんから「かわいい女の子を出しましょうよ」と言われて。じゃあ先にディアンヌにするか、と。でも待てよ。ふつうのかわいい女の子だったらすでにエリザベスがいるしなあ、と思って巨人族という設定にしてみたら、今度は担当さんが「大きい女の子って需要あるかな……」と悩んでしまって。ぼくはその反応を見てむしろ、いいかもしれないと思いました。普通の女の子だったら、ただのやきもち焼きになっちゃいますしね。巨人の女の子が未開拓ならぜひ挑戦したいな、と。エリザベスも上手く動いてくれました。セクハラされて相手をバシッと叩くんじゃあステレオタイプだし、かといってただのお色気シーンは描きたくないし、だったらセクハラに一切抵抗しない女の子はどうだろう、男の夢なんじゃないかな、と思って描いたら実際にそういう反応がかえってきました。「メリオダスみたいにセクハラしても怒られない方法を教えてください」っていう質問とか(笑)。


――メリオダスじゃない限り無理ですね(笑)。今後はまだ姿の見えない大罪のひとり、エスカノールも登場するのでしょうか。


鈴木 そうですね。でも本誌ではまだまだ先です。ただ、アニメのDVDが1月に発売されるのですが、初回限定盤で描きおろしの30Pマンガが付くんですが、そこに初めて登場します。2巻にも同じく描きおろしマンガが収録される予定です。


――週刊連載にくわえて描きおろしまで……。アニメでも毎話挿入される冒頭アニメーションは、鈴木さんの描きおろしだと聞いています。やはりご自身が楽しいから、これほど密度の高いマンガをハイスピードで描かれるのでしょうか。


鈴木 でもぼくは絵を描くのが好きじゃなくて(笑)。ネーム(鉛筆描きのラフ)段階で話をつくる作業は大好きなんですけど、それを原稿に清書するときが何より苦痛なんです。暇なときに絵を描くっていうことさえしない。だけどマンガを作るのが好きなんですよね。キャラクターや展開を考えるのが。だから、これからもどういう展開になっていくのかはぼく自身、未知数なところもありますが、読んでいる人たちが大人でも子供でも毎週わくわくしてくれるものにしていきたいですね。誰かの家で1巻を見つけて読んだら「ちょっと、次の巻はないのか!」ってあわてて探すようなスピード感をもたせたい。そうして紡がれる物語が、ぼくなりのひとつのアーサー王伝説となってくれたらいいなと思っています。読まれる限りはやはり世界中の人に読んでほしいので、「アーサー王といったら鈴木央の『七つの大罪』でしょう!」と言ってもらえるくらいのマンガを描いていくつもりです。今後も楽しみにしていてください。



(2014年12月5日、都内仕事場にて/構成・文=立花もも)

作品紹介

『七つの大罪』

鈴木央 講談社 講談社コミックス

七つの大罪 作品情報

PROFILE

鈴木央すずき・なかば

1977年、福島県生まれ。94年に『Revenge』が「週刊少年ジャンプ」のホップ☆ステップ賞で佳作を受賞しデビュー。『七つの大罪』のほか、著作に『ライジングインパクト』(集英社)、『ブリザードアクセル』『金剛番長』(ともに小学館)、『ちぐはぐラバーズ』(秋田書店)など。10月に発売された初の短編集『七つの短編 鈴木央短編集』には『七つの大罪』の特別読切版が収録されている。