スペシャルレポート Vol.16 声の演技を通じて思いを伝える!梶裕貴

 2006年、『桜蘭高校ホスト部』に出演して以来、『黒執事』『青の祓魔師』『マギ The kingdom of magic』など数々のテレビアニメにて活躍している声優・梶裕貴さん。『進撃の巨人』の主人公・エレン役で注目を浴び、今年は『七つの大罪』の主人公・メリオダス役や『アオハライド』でヒロインの想い人・馬淵洸役をつとめ、声優アワード主演男優賞を2年連続で受賞するなどその人気と勢いはとどまることをしらない。SUGOI JAPANで対象となる作品は2005年以降の過去10年間にスタートした作品だが、その年月は梶さんの声優としての歩みの歴史でもある。そんな梶さんに、おすすめのノミネート作品や声優としての思いをうかがった。

『進撃の巨人』は僕にとって特別な作品です

――ノミネート作品の中には梶さんが出演されているアニメや、出演作の原作も多いと思うのですが、全体としての印象はいかがですか。


 アニメだけでなく全ジャンル203作品を見渡してみると、改めて、多くの作品に関わらせていただいているんだということを実感しますね。非常にありがたいですし、素直にとても嬉しいです。


――特に印象に残っている作品や、海外の方にぜひおすすめしたい作品などはありますか。


 どれも素晴らしい作品ばかりで、関わらせていただいたものはすべて大切、というのが大前提ではありますが……。『進撃の巨人』は、たとえ言葉がなかったとしてもビジュアルだけで強いインパクトを与える作品ですし、構造としても「人vs. 人ならざるもの」というシンプルで王道的な物語なので、世界中、どの国の方にも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。この作品は僕にとっても特別なものになりました。もともと原作を面白く読ませていただいていて、そのころはアニメ化するのは難しい作品なのかなという印象をもっていたので、アニメ化されると知ったときは、いちファンとしてうれしかったですね。なので、オーディションに呼んでいただけたこと自体がうれしかったです。好きだからこそどんな役でもいいから関わりたいと思っていたのですが、…まさかエレン役でオーディションのオファーがくるとは、その当時思ってもいませんでした。


――どちらかというと、かわいらしい雰囲気の役を演じられることが多かったですものね。


 そうですね。作品のテイストはもちろん、エレンという人間が、自分の中に存在する人格であるという意識があまりなかったんです。オファーが来るとしても、アルミンかなあと思っていたくらい(笑)。なので、エレン役は僕にとってもひとつの挑戦でした。荒木哲郎監督とは、『進撃の巨人』のひとつ前の作品『ギルティクラウン』(主演)でも一緒にお仕事をさせていただいていたので、連続して主人公役というのは、より難しいんじゃないかなという思いもありました。同じ監督が同じ主演キャストを連続して使うというのは、イメージが固定してしまうというか、ファンの方にもなかなか受け入れられがたい部分があるのではないかと。でも、オーディション前にそれとは別に監督とお話する機会があって、そのときに「作品をより良いものにするために、本当に必要だと思ったら、そんな細かいことを気にして外すなんてもったいないことはしません」とおっしゃってくださって。そのお言葉を受けて、「じゃあ僕も、余計なことは考えず、ただただ全力でオーディションを受けさせていただこう」と思って演じたんです。もちろん緊張もありましたけど、楽しかったですね。


――『進撃の巨人』のアニメは、実際、海外でも大反響を呼んで幅広いファンを獲得しましたが、そういった反応をダイレクトに感じることはありますか?


 日本のイベントに海外から来てくださる方も、がんばって日本語でお手紙を書いてくださる方もいます。海外でのオンエアが吹き替えなのか字幕なのかはわかりませんが、販売されるパッケージには僕たちの声が吹き込まれていますし、海外の方にもさまざまな形で聴いていただいていると思います。今年、はじめての国外イベントを台湾でやらせていただいたんですが、その熱量にも圧倒されました。作品も、キャラクターも、そして僕自身のことも歓迎してくださっているのが本当に強く伝わってきて、日本のアニメ文化――ジャパニメーションというものが、国を超えて広く楽しんでいただけるものに進化しているというのを肌で感じました。


――他にもおすすめの作品はありますか。


 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』も海外の方に観ていただきたい作品ですね。僕は関わっていないんですが、舞台となった秩父の情景が細やかに描かれているので日本の景観の美しさを感じていただけると思いますし、幽霊は出てくるものの非現実的過ぎず、リアルな世界観とお芝居が魅力的です。『時をかける少女』もいいですね。細田監督の作品は、公開されるたびに映画館に足を運んでいますが、これもまた『あの花~』と同じように、映像の美しさと高校生の日常を描いたドラマを通じて、日本のよさを感じていただける作品なんじゃないかと思います。あとは『けいおん!』。いわゆる“日常系”ですが、これぞ今のジャパニメーションの代表という印象です。まだ深夜アニメのなかった時代、僕らが子供のころに観ていた作品とはまた違うものですが、キャラクターが生き生きとしていて強く惹きこまれます。「女の子が軽音楽と出会い、成長していく」という設定はどの国でも通じるテーマだと思うので、海外の方にもなじみやすいんじゃないでしょうか。


そのとき輝いているエネルギーには、理由がある

――出演される作品の原作マンガ、原作小説は、事前に読まれるのでしょうか。


 そうですね。原作ものであればオーディションを受けると決まった段階で、時間の許す限り読むようにしています。ただこれは、その役者さんによってそれぞれ違うと思うので、どちらがいいとも言えませんが。「まだ自分がやると決まっていない状態で詳しく知りすぎるのはよくない」と、フィーリングでオーディションを受ける方もいれば、原作を極力理解して、キャラクターを自分の中になじませたうえでオーディションに臨むという方もいらっしゃるので。僕は後者ですが、その役作りも自分でイメージしているだけのものにすぎないので、監督をはじめとしたスタッフの方々がそれを望んでいるかどうかというと、また別問題になってきます。あまりイメージを固定しすぎると、現場で「もう少しこういうふうにやってほしい」という演出上の指示があったときに対応できなくなってしまいますから。なので僕は、ドラマの大筋やキャラクターに関しての必要な情報を知るという意味で読ませていただいていますね。


――マンガ部門で、海外に向けてのおすすめ作品というとどれでしょう。


 日常的なドラマという意味では『アオハライド』(※アニメ版に馬淵洸役で出演)をおすすめします。ジャンルとしては少女マンガですが、過剰な甘い表現が多いわけではなく、リアルで等身大の恋愛観が詰まっていて素敵な作品だと思います。他には、僕が子供のころに『スラムダンク』を読んでバスケに興味を持ったのと同じようなポジションに今『ハイキュー!!』(※アニメ版に孤爪研磨役で出演)がありますよね。個性の際立ったキャラクターたちを描きながら、バレーボールの面白さが丁寧に描かれています。読んだ子供たちに、「バレーボールをやりたい!」と思わせるような熱量を持った作品です。『マギ The kingdom of magic』(※アニメ版にアリババ役で出演)はいわゆる王道ファンタジーで、マンガやアニメを象徴するような大舞台を楽しんでいただける作品なので、これも国境を越えて伝わりやすいんじゃないでしょうか。いまアニメが放映中の『七つの大罪』も同じく王道ファンタジーですよね。どこか懐かしい印象をいだかせる一方、新しい表現方法も駆使された作品だと思います。僕は主人公のメリオダスを演じさせていただいているのですが、これもエレン役と同じで、当初、自分の中にあまり引き出しがなかった役なんですよ。見た目と中身のギャップがある役なので、自分の中の新しい可能性みたいなものを、役作りを通して学ばせていただいている所です。試行錯誤しつつも楽しいですね。
 あと、アニメとは関係ないおすすめ作だと、『おやすみプンプン』でしょうか。浅野いにおさんの作品が好きで、いま連載している『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』も面白く読ませてもらっています。情緒的で、深くて、繊細な浅野作品を、海外の方が読まれてどういう感想を持たれるのか、個人的にも興味があります。


――ラノベもアニメ原作になっている作品が多いですが、ふだんは読まれますか。


 そうですね。関わらせていただいている作品も多いですし。ラノベは、SFから日常系までいろいろな世界観の作品がありますが、やはりキャラクターの魅力がとても大事になってくるジャンルだと思います。なのでアニメ化される際は、演じるにあたってそのあたりを強く意識しています。他のアニメ作品とは違って、よりキャラクターたちを生き生きと感じていただけるような役作りを心がけています。こうやってノミネート作品を見渡してもみると、タイトルが印象的なものも多いので、時代によってブームがあるんだなというのをしみじみ感じますね。この、長いタイトルの持つ面白さは、海外の方たちにどういう形で受け止められるんでしょう(笑)。単純に訳しただけで伝わるものなのか、気になりますね。


――印象に残っている作品はありますか。


 これもまた自分が関わらせていただいたものになってしまうんですが『変態王子と笑わない猫』(※アニメ版に横寺陽人役で出演)。タイトルからしてインパクトの大きな作品です。僕はさすがにプライベートでここまで変態的な発言をしないので、そのあたりはキャラクターを通して楽しませていただきました(笑)。インパクトのある台詞は、視聴者の方も面白がってとりあげてくださるので、そういうところから名言や流行語が生まれることもありますしね。面白いです。
 『ブラック・ブレット』では主人公の里見蓮太郎役をやらせていただきましたが、これもまた、ある意味自分にとっての挑戦でした。ハードでブラックな世界観で、ヘビーな物語が展開されるので、いわゆるラノベの魅力である“軽い”読み心地や、アニメになったときの観やすさとは違う印象を与えるかもしれない。そんな中で、ご覧いただいて何か感じてもらえるようなお芝居ができればいいなと思いながら臨ませていただきました。


――エンタメ小説では、『新世界より』のアニメ化作品に、主人公の一人である朝比奈覚役として出演されていますね。


 これまであまりミステリー作品に触れたことがなかったので、僕個人としても、その入口として楽しませていただきました。役柄としても、少年時代から青年期に至るまで、さまざまな時系列で演じなくてはいけなかったので、楽しかったけれど、難しかったです。『図書館戦争』シリーズもアニメ化もされていますよね。僕は関わっていないんですが、有川先生の小説はどれも大好きなんです。作品によって世界観が全く違うにもかかわらず、それぞれの設定が細かなところまで描写されていて、先生の知識の豊富さと表現方法の豊かさに毎回感服しています。それから『天地明察』。冲方先生は、僕も出演させていただいているアニメ『蒼穹のファフナー』シリーズ(※西尾暉役で出演)のシリーズ構成も担当されていらっしゃるので、直接お話をさせていただく機会もあったのですが、常にいろいろなことに興味を持って楽しそうにお話をしてくださる素敵な方、という印象があります。先生の作品も、いつも興味深く読ませていただいています。個人的には森見登美彦さんの作品も好きで、新作が出るたび読ませていただいています。独特の文体や台詞回し、なにより京都が舞台であるの作品が多いところも好きですね。それもあって、時間があるとひとりでふらっと京都へ行ったりもしています。聖地巡礼もかねて(笑)目的はなくても散策するだけで幸せな気持ちになれるくらい京都が好きなんです。


――お仕事に関わっている、関わっていないにかかわらず、かなりたくさんの作品を読んでいるんですね。


 いろんな作品に興味がわくのですが、数が多いのでどうしても追いつかなかったりしますしね。ただ、アニメもマンガも小説も、ジャンルに限らず話題になっている作品には、極力目を通すようにしています。旬の人とか食べ物もそうですけど、そのときに輝いているものには、ものすごいエネルギーを秘めた、何らかの理由があると思うんです。なので出来るだけ、そういったものは積極的にとりいれていければなと。インプットに役立てるという意味でも、アンテナは敏感に立てているつもりです。


文字や絵を超えた“何か”を伝えることが声優の使命

――そもそも声優になりたいと思ったきっかけを教えていただけますか。


 子供のころからマンガやアニメには当たり前のように触れていて、小学校でも友達とそうした話題で盛り上がることがほとんどでした。作品を通じて「こんな世界があるんだ」「こんな仕事があるんだ」と知ることも多かったですし、知識として学んだり、将来の夢を抱くきっかけになったり、大きな役割を果たしてくれる媒体でしたね。そんなふうに小学生くらいのころから、さまざまな作品に影響されて、そのときどきのマイブームによって夢が変わったりしていたんですが、中学生になって声優になりたいと思ってからは変わらない夢になりました。「声優という仕事は何について学んでも、どんなことを頑張っても、全部自分の力になる」と知ったのがきっかけですね。ちょうどそのころに声優誌が創刊されはじめて、さまざまな声優さんが、声だけでなくビジュアル的にも世間に出てくるタイミングだったのも大きかったと思います。


――そんな早くから抱いていた夢を実現させられる人も、そんなに多くはないと思うのですが。


 そうですね……運もよかったと思います。今と違って当時はまだまだ間口が狭くて、声優を目指し始める人は多かったのですが、どうしたらなれるかというのがオープンではなかった。そんなときに高校で演劇部に入って、多くの声優志望の仲間に出会ったんです。そのうちの一人に紹介されて、声優養成所のオーディションを受けました。そこに運よく受かることができたうえに、レッスンは土日だったので高校に通いながらでもOKで、しかも無料というものだったので、金銭的にも時間的にも学業と両立できました。もしオーディションに受かっていなかったら、無料じゃなかったら、レッスン日が学校とかぶっていたら…もしかしたら、それを続けることはできなかったかもしれませんし、学校生活や日々の暮らしの中で、違う職業に興味を持っていたかもしれません。なので、そういった偶然が重なって、運よくこの世界に足を踏み入れることができたのは、本当にありがたかったですね。…でも、そこからが本当の戦いでした。当初は、月にひとつ仕事があればいい、みたいな日々も続きましたし。


――梶さんでもそうなんですか。順調に階段をのぼられてきたような印象ですが。


 いやいやいや(笑)。そんなことはまったくなくて、本当に長い道のりでした。声優誌で覗き見る世界は華やかで、声優になればいろんな仕事がもらえて役も演じられるんだ、という「漠然とした夢」が、実際に事務所に所属して「具体的な目標」になったとたん、厳しい現実にもさらされるんですよね。オーディションに受かって養成所に入っても、5年で卒業して事務所に所属することができても、全く仕事がないという。先日引越しをしたのですが、そのときに8年くらい前の手帳が出てきて。見ると、月のスケジュールに描かれているのが、仕事ひとつとオーディションの予定、それから入るはずだったのにダメになってしまった仕事がひとつ、という有り様でした。そんな状態が4~5年は続きましたね。2007年に『Over Drive』という作品のオーディションに受かって、主役を演じさせていただいてから少しずつ変わってきました。それまでは名前のない役も多くて、一回呼んでいただければありがたいという状況が続いていたんですが、レギュラーになると毎週現場に行けるわけです。そうなると、先輩方のお芝居を直接肌で感じられる機会が増え、現場での振る舞い方をはじめさまざまなことを時間をかけて学ぶことが出来ました。役柄に関しても、自分に出来ることを色々な形で試して聴いていただくことも出来ました。それは、僕の声優人生において、非常に大きかったと思います。


――そこからこうして、さまざまな作品に主役として出演されるようになった今、これからチャレンジしていきたいことはありますか。


 出来るだけ多くの方にご覧いただける――それこそ、普段アニメを観ないような方にも興味を持って楽しんでいただけるような作品に出演したい、という想いが強くあります。そういった意味でも『進撃の巨人』は、僕の名刺代わりになるような代表的な作品となりました。一方で、たとえターゲットを限定するような作品であっても、幅広い方に楽しんでいただけるような芝居をすることで、作品がより注目されるようなお手伝いもしていきたいですね。  でも何より、一番は製作にかかわる全ての方々がその作品を愛し、熱い気持ちを込めて作られている現場で、その上で僕を必要としていただけるのであれば、どんな役でも喜んでやらせていただきたいです。


――これほど声優業界が盛り上がっている国というのは、日本以外にあるでしょうか。


 たしかにあまり聞かないですね。なので、アニメを通じて日本語に興味を持って、ひいては日本に興味を持っていただけたらなと思います。現在、世界的な公用語は英語ですが、日本語の面白さや奥深さを、僕たち声優が関わることで、「音声」として伝えていけたら嬉しいですね。文字や絵で触れるのとはまた違った魅力があると思いますし、僕たちのお芝居だけでなく、演出や効果音、さまざまな要素が組み合わさって、より立体的になったり、いい意味での非現実を感じていただけるものになったりすると思うので。そうした“なにか”を伝えるのが、僕たちの使命だと思っています。観ている方にとって、そこにそのキャラクターが本当に存在するような感覚を味わっていただけるように、これからもがんばっていきます。



(2014年11月28日、新宿にて/構成・文=立花もも)

PROFILE

梶裕貴かじ・ゆうき

1985年、東京都生まれ。ヴィムス所属。出演作に『進撃の巨人』(エレン・イェーガー役)、『信長協奏曲』(明智光秀/織田信長役)、『アオハライド』(馬渕洸役)、『ハイキュー!!』(弧爪研磨役)ほか多数。現在、『七つの大罪』(メリオダス役)、『ワールドトリガー』(三雲修役)、『曇天に笑う』(曇空丸役)、『ダイヤのA』(成宮鳴役)、『四月は君の嘘』(相座武士役)、『ポケットモンスターXY』(シトロン役)などに出演中のほか、12/20より劇場公開の映画『妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』(フユニャン役)に出演。2015年には、『東京喰種トーキョーグール√A』(霧嶋絢都役)、『デュラララ!!×2』(遊馬崎ウォーカー役)、『蒼穹のファフナー EXODUS』(西尾暉役)、『ハイスクールDxD BorN』(兵頭一誠役)などに出演予定。