スペシャルレポート Vol.13 私の大好きな本 海外に紹介したい本 蒼井優

 映画、TVドラマ、舞台、アニメーションの声優……幅広いジャンルを舞台に活躍する女優・蒼井優さんは、大の読書家としても知られている。彼女にとって読書とは、言葉とはいったいどんなものなのだろうか。日本の小説の魅力について、また海外へ届けるとしたらどんな本を薦めたいか、お話をうかがった。

生きていくことは、世の中に溢れている言葉を体験し、実感すること

 女優として映画・ドラマ・舞台にますます存在感を増している蒼井優さんにとって、読書は、単なる「趣味」という以上の大切な時間だったらしい。


「今思うと、高校を卒業したくらいから22歳くらいまでは、ほとんど家に籠って、本を読んだり、映画を観たりという青春時代を過ごしていました。デビュー当時は人見知りが激しくて、話しかけられてもどう返していいかもわからなかったから、撮影の空き時間は寝たふりをしていました(苦笑)。しゃべるのが苦手だったので、友達のつくり方も全然わからなくて。映画と本が好きなので、それで十分みたいな」


 葛藤した日々、本の中の言葉に支えられたこともあった。それだけに本に対する思い入れは深い。


「ある意味、人に褒められるのは易しい。いいことをすれば、人は褒めてくれるから。でも自分のことは表も裏もわかってしまうから、自分を自分で認めてあげるのって難しい。本が好きだからそう思うのかもしれないけれど、生きていくことは、世の中に溢れているいろんな言葉を、自分で体験して、ひとつひとつ、実感していくことでもあると思うんです」


 人と出会うように、本と出会ってきた。


「好きな本はたくさんあって、1冊選ぶのは難しいですね。常に好きな本を挙げるとしたら、写真家の星野道夫さんの『旅をする木』。アラスカで暮らして、自然や動物の写真を撮りながら、執筆活動もされていた星野さんは、ヒグマが大好きで、でもそのヒグマに襲われて43歳で亡くなっていて。『旅をする木』はアラスカで暮らした日々やそこで出会った人たちについて書かれたエッセイ。文章が優しくて、とてもいいんですよ。素敵な言葉がたくさん詰まっていて、読みかえすたびに響く言葉が違うんです。『放浪記』で知られる林芙美子さんの本を時系列順にまとめて読んでみようと思ったのは、大竹しのぶさんの舞台『太鼓たたいて笛ふいて』が素晴らしかったから。ちょうど今、山田洋次監督の映画を撮影しているんですが、映画の現場でもよく本の話をします。山田組も本が好きな人が多いので、みんな、撮影の合間に本を読んでいて、最近読んだ本で何が面白かったかっていう情報交換をしています。面白そうだなと思ったら、とりあえずその場でAmazonの〈ほしいものリスト〉に登録しておいて、それをメモ代わりに興味の赴くままどんどん読んでいく感じですね」


翻訳小説の、ちょっとした言葉のズレが好き

 最近読んでいるのは本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間~サイズの生物学』。それを読み終わったら、今度はローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』を読む予定。


「ジャンルにはあまりこだわらないかも知れません。周りも本が好きな人が多いので、以前は日本の小説ばかり読んでいたのが、おかげで最近は翻訳小説を読むことも増えました。翻訳小説って、翻訳によるちょっとした言葉のズレみたいなのが面白い。日本の小説は自分の日常と地続きな感じがするけど、海外の小説は、その距離感を楽しむみたいなところがありますよね。翻訳家だと岸本佐知子さんは上手いなあと思う。知らない作家でも岸本さんが訳してると、きっと面白いんじゃないかって翻訳家で買ったりもしています。訳し方によってはどうしても合わないこともあるから、どう訳すかって大事だなって。海外の映画祭で日本の映画が上映されたりすると、日本の観客とはまったく違うところで笑ったり、泣いたり、反応が違って、びっくりすることがあるんです。国や文化によって、やっぱり感じるポイントって違うんだなと思うこともあれば、反対に細かいニュアンスまでちゃんと伝わることもあって。まして小説は言葉だから、自分が好きな日本の作品が翻訳されて海外に出ていく時に、日本語のこの微妙なニュアンスってどこまで出せるものなんだろう、私の好きな作品はちゃんと楽しんでもらえるのかなって。マンガだと、たとえば松本大洋さんの作品って、海外ではどうなんですか?」


 『鉄コン筋クリート』がアニメ化された際には主人公のひとり、シロの声優を務めた蒼井さん。最新作『Sunny』の英語版がニューヨークタイムズのマンガ部門の3位にランクインするなど、松本大洋作品は海外にも根強いファンを持つ。ただ、ジャンルとしてはコミックといより文学に近い作品としてとらえられているようだ。


「なるほど。わかる気がします。あの絵の魅力も大きいのかもしれませんね。最近だと五十嵐大介さんの『海獣の子供』も好きです。『海獣の子供』も、やっぱり絵の力を感じる作品ですよね。手にとったきっかけ? 主人公の男の子が甥っ子に似てるんです(笑)」


海外に薦めたいのは、日本の高い美意識がつまった2冊

 そんな蒼井さんが海外に発信したい本、外国の人に読んでほしいなあと思う本を選ぶとしたら、何だろう。


「そうですね……まずは谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』かな。日本の美意識の高さが詰まっている本だから。谷崎、大好きなんです」


 初めての対談集『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』の中でも、対談相手の小泉今日子さんと「もしも文豪と恋したら?」という小説好きのふたりらしい対話を繰り広げている。


「『私の彼は、谷崎純一郎。太宰も好きだけど、太宰は今日子さんのものだし』っていう、小説好きならではのイタイ妄想を(笑)。谷崎の小説は、私、コメディだと思っているんです。『猫と庄造と二人のをんな』なんて、妻と愛人、どっちの家に猫がいるかで右往左往する。いい大人が猫一匹であんなに狂うかっていうね。ちょっと一個、小さな穴が開いたところにみんながゴオオオーッと巻き込まれていく。谷崎のブラックホールと呼んでいるんですけど『卍』もそうですよね。ひとりの美しい女性が現れたために周りが次々と破滅していく。『卍』も、私はブラックコメディだと思って読んでいます。谷崎潤一郎は海外でもファンが多い作家だと思うけれど、ただ耽美なだけじゃない、そういうちょっと微妙な、人間くさい面白さみたいなのって、どこまで伝わっているんだろう」


 ともすれば「日本の美」の代名詞みたいにわかりやすいイメージが先行してしまうけれど、それではとりこぼしてしまうものがあるんじゃないだろうか。


「そういえば、私、ずっと海外の人に見てもらいたいと思ってる写真集があるんです」


 そう言って挙げてくれたのが、なんと、写真集『DECOTORA』。極彩色の電飾がきらめくデコレーション・トラックの写真集だ。ちょっと意外なチョイスという気もするけれど、理由は明快。


「『陰翳礼讃』もザ・日本の美意識だと思うけれど『DECOTORA』だって日本の文化、日本の美意識だと思うんです。どっちもあるから面白いし、どっちもあるのが日本だから。『DECOTORA』には、ここまでやるか日本人!っていう男気を感じます(笑)」



(2014年11月3日、表参道にて/取材・文=瀧晴巳 写真=冨永智子)

本紹介

『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』

蒼井優 集英社 1300円(税別)

野田秀樹、岩井俊二、市川猿之助、小泉今日子、佐藤健、羽海野チカ、大竹しのぶ……女性誌『MORE』で3年間にわたり豪華ゲスト33名と対談した連載企画「8740-HA・NA・SHI・WO-」が書籍化。 仕事、恋愛、趣味、生き方……人を通じて人生を見つめ直した、著者初の対談集。3年間をふりかえったインタビューも特別収録。女優・蒼井優の3年間の足あとをたどった1冊。

PROFILE

蒼井優あおい・ゆう

1985年、福岡県生まれ。1999年、ミュージカル『アニー』でデビュー。2001年、『リリィ・シュシュのすべて』で映画デビュー。映画『ハチミツとクローバー』『フラガール』『るろうに剣心』、ドラマ『龍馬伝』『MOZU Season2~幻の翼~』『若者たち2014』、舞台『サド侯爵夫人』に出演するなど幅広いジャンルで活躍。2015年2月、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出のチェーホフ劇『三人姉妹』に出演予定。また、同月公開するアニメーション映画『花とアリス殺人事件』(2004年に出演した岩井俊二監督映画『花とアリス』の前日譚にあたるもの)に声優として出演予定。