スペシャルレポート Vol.12 アニメの力で 日本を牽引するクリエイター 新房昭之

 可愛らしい少女たちが自らの願いを一つ叶える事と引き換えに魔法少女となり戦う――深夜枠でスタートしたオリジナルアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』は、その絵柄からは予想できない衝撃的な展開で視聴者の心を一気につかんだ。その衝撃は国内にとどまらず、たとえばイタリアでは国営放送にて現地時間日曜午前10時に吹き替え版が放送された結果、AmazonのDVD総合ランキングの1位に躍り出るなど、世界中の人々を虜にした作品だ。一方、「〈物語〉シリーズ」は西尾維新の言葉遊び巧みな原作小説を、世界観を壊すことなく再現しており、そのシリーズ作品ひとつひとつに高い評価を受けている。そんな、日本のアニメ業界を牽引する一人でもある新房監督にお話をうかがった。

海外で売れることよりも、まずは日本を意識したい

――新房さんが総監督を務められた『魔法少女まどか☆マギカ』は、日本国内はもとより、海外でも大きな反響を呼びました。制作時にはこうした反響が広がると想像されていたんでしょうか?


新房 とんでもないです。当時は「作品がうまく行ってほしい」と、ただそれだけ考えていました。海外での展開なんて想像もしていなかったですし、まずは自分たちの足元を見るほうが先ではないかと思うのです。アニメのパッケージソフトを買ってくれるような、コアなアニメファンにどうすれば届くのか。それだけを考えていた、というのが正直な気持ちですね。だから一概に「海外でウケているから、日本のアニメは素晴らしい」という風潮には違和感を覚えます。そう言っている人のうち、いったいどれだけの人が、今のアニメ業界の実態を理解してくれているんだろうか、と。
 やっぱり、作品がウケて、売り上げに繋がって初めて「僕たちの仕事には価値がある」と言えると思うんですよ。僕たちがやっていることはいわゆる娯楽産業なわけで、極論を言うと、世の中に絶対に必要なものではない。そういう仕事を生業にしていて、しかも作った作品の売れ行きが悪かったとしたら、もうこれは世間と関わりがないんだな、ということですよね。そういう意味でも僕は、まず日本国内で売れてほしいと願うわけです。日本のファンが放映だけでなくソフトも買おうと思ってくれるほどのものができてやっと、そこに価値が生まれるんだと思います。


――海外に輸出するなら、まず日本での基盤を固めなくてはいけないということですね。


新房 とはいえ、僕のなかでは、常に相反するふたつの気持ちがせめぎ合っていて(笑)。売れたら売れたで、騒いでる人たちを見て「それは違うぞ」って言いたくなってしまうし、売れなかったら売れなかったで、僕たちの存在意義はあるんだろうか? と思ってしまう。その狭間で毎回、揺れています。


――新房監督はこれまでたくさんの作品を手掛けられていますが、なかでも『まどか』は、コアなアニメファンだけでなく普段はアニメを観ないような視聴者にも広く受け入れられたエポックメイキング的な作品でした。第3話である事件が起きて、そこから物語が本格的に動き始めます。当然、新房さんのもとにも反響が寄せられたかと思うのですが……。


新房 そうですね。ただ放映中、話題になっていても売り上げに結びつかない作品も多いですし、最終的な結果がどうなるかは、最後まで行ってみないとわからない。しかも当時は、アニメのオリジナル作品が少ない時期でしたし、第3話の展開を考えても「どんなふうに受け止められるんだろう」と、非常にドキドキしていました。


――なかには、思ってもみない反応もあったんでしょうか?


新房 巴マミというキャラクターにあれほどの人気が出るとは、思っていませんでしたね。彼女は重要な登場人物のひとりではあるんですが、決して出番が多くはない。これは『まどか』の主要キャラクターすべてに言えることですが、なかでも特にマミとキュゥべえについては、視聴者に育てられたキャラクターだという印象が強いです。やはり、どれだけ物語が面白くても、キャラクターが魅力的でなければ、観ている人を惹きつけることはできない。そしてそこに関しては、岩上(敦宏/プロデューサー)さんの力が大きいと思います。僕たちアニメを作るシャフトの制作陣と、キャラクター原案の蒼樹うめさん、そして脚本の虚淵玄さん。この3組を組み合わせてみよう、というのは、岩上さんの発想でしたから。


――うまくハマったということですね。


新房 いや、むしろ逆にハマってないんだと思いますね。僕が最初にあのシナリオを渡されていたら、もっとリアルな絵でやろう、と考えたと思います。蒼樹さんの可愛らしい絵でやろうという発想がそもそも出てこない。あと『まどか』に関していえば、タイミングもあったと思います。ちょうどあの頃、ほかに魔法少女モノのアニメがなかったんですよ。実際、シナリオが上がったのは1年以上前で、最終的に制作が延びて、あの時期に放映することになったという事情があるんですが、もし脚本が上がってすぐに制作に入っていたら、もしかしたらほかの作品の間に埋もれてしまっていたかもしれない。そういう運の部分も、作品の成功にとっては大きな要素だと思います。


たくさんの人に観てもらえる=“売れる”作品を作るということ

――SUGOI JAPANでは新房さんが関わられた作品のなかでもう一作、〈物語〉シリーズもノミネート作品に選出されています。第1作の『化物語』から数えると、もう5年近く関わり続けていることになるわけですが、新房監督にとってはどんな作品になりましたか?


新房 やっぱり原作の力がスゴいな、と。それは今でも毎回、感じますね。たとえば絵コンテの段階で多少不安があっても、アフレコを始めて声が入って、西尾(維新)さんのセリフの掛け合いが音になって聞こえてくると、「ああ、これだけで持っちゃうな」と思わされる。それこそなにげない会話でも面白いんですよ。しかも最初の頃は、その会話が重要な伏線になっていたりします。思わず西尾さんに聞いたことがあるんですよ。「これ、最初っから考えていたんですか?」って。〈物語〉シリーズは、関わることができて本当にラッキーだったと思いますね。


――今のお話を伺っていて、〈物語〉シリーズの場合は原作者の西尾さん、『まどか』では岩上プロデューサーが大きな役割を担っていた、と感じました。それだけにとどまらず、アニメは集団作業の要素が大きいメディアですが、その面白さはどこにあるのでしょうか。


新房 やはり、関わっているスタッフのアイデアが乗っかってくるところですね。僕は「最終的なフィルムの形はこうあるべきだ」とは思っていないんですよ。自分が考えたものより面白くて説得力があれば、それで構わない。絵コンテと実際の画面が違っていても、面白ければそれでいいんです。『まどか』のときでいえば、劇団イヌカレーさんにやってもらったパートがそう。あとはワルプルギスの夜と戦う場面もそうかな。要するに、本来なら暁美ほむらが盗んできた武器しか出しちゃいけないはずなんですけど、「それはどこから持ってきたの?」というようなものが混じってる(笑)。でもカッコいいから、まあいいか、と。僕が自分でやっていたら、あそこまではやらなかったと思います。


――なるほど。〈物語〉シリーズに話を戻したいのですが、原作はもともと熱心なファンが多い作品ですよね。


新房 そうですね。なので〈物語〉シリーズも始まった当初は、かなり賛否両論がありました。でも結果として、賛否は分かれた方がいいんですよ。興味がないというのが、一番よくないわけで。「好き」でも「嫌い」でも、反応があった方がいい。原作ファンが「違うよ」って言いながらも観続けてくれたというのは、やっぱり興味があるということなわけですから。とはいえ、それは狙ってできるものではないですね。あと〈物語〉シリーズをやっていて感じたのは、小説はマンガと違って絵がないので「絵柄が違う」という不満があまり出てこないということです。そこに突破口があるのかもしれない、と思います。小説の地の文に書いてあることさえクリアできていれば、あとはこちらの裁量次第というか。そういう面白さは〈物語〉シリーズで発見した気がしますね。


――お話をうかがっていると、新房監督は視聴者を強く意識されていると感じます。


新房 すごく意識していますね。そういう意味で今、一番難しいなと思うのは、アニメのパッケージを買ってくれるコアなアニメファンと、アニメを熱心に観てくれるであろう中高生がズレてしまっていることなんです。もちろん中高生は将来、アニメファンになってくれるかもしれない層なのですが、売り上げに直接結びつくわけじゃない。それからもう一つ、10代を意識しようとしても、もう僕の年齢だとイメージがわかない、ということもあります。いったい彼らが普段、どんな会話をして、どんな生活をしているのか、想像ができない。だから僕自身は、10代よりもコアなアニメファンの多い30代に向けた作品を作る方がいいんじゃないか?と。


――いやいや、そんなことはないと思いますけども(笑)。


新房 たとえばシリアスなエピソードを描くときでも、30代に向けた作品を作るときは、痛い部分をオブラートに包もうと考えます。実際の現実で散々、痛い目にあっているわけで、アニメでそこまで表現しなくてもいいよね、と。ただ逆に小学生に見せるのであれば、痛い部分は痛いものとして見せたいんですよ。殴れば痛いし、刺したら血が出る。そこは隠さずに表現すべきだ、と思っているんですね。首を刎ねられたら、当然、血が出る。君たち、それがどういうことかわかるよね? と。


――そこはリアリティとして伝えるべきだ、ということですね。


新房 『まどか』のなかには、ある登場人物の首がガブッと食べられる描写があるんですが、表現としてはファンタジーな方向に振っているんです。それは『まどか』のメイン視聴者が30代だからなんですね。僕としては、かなり抑えた表現にしている。音にしても、最初は「ゴリッ」というような音がついていたんですが、途中でそれを止めて、一番衝撃が少ない音にしよう、と。それでああいう表現になったんです。


――では最後に、新房監督は現在も精力的に作品を制作されていますが、これからやってみたいことはありますか?


新房 率直に言えば、売れる作品がやりたいですね。好きなモノを作りたいとももちろん思いますが、売れるモノを作っている方がずっと楽しいんです。というのも、売れると関わってくれたスタッフの苦労が報われるんですよ。自分たちが作ったモノが売れているということは、多くの人に観てもらえて、楽しんでもらえているということなわけですから。そこにはしっかりとした手応えがあるんです。若い頃は「自分が面白いと思わなければ、作る意味がない」と思っていましたけど、今はやっぱり、いろんな人に観て、楽しんでもらえるものが作りたい。作家性が強いアニメの監督さんはいっぱいいらっしゃいますし、もちろんそれはそれでいいことですが、僕は作家性が決して強い方ではないですから。映像に関してはスタイルがありますけど、物語に関してはどんなものでも構わない。だから、それがたとえどんなジャンルであっても、面白くて売れるものが作りたいと思います。



(2014年10月10日、井荻にて/取材・文=宮昌太朗)

作品紹介

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語

新房昭之/総監督 宮本幸裕/監督 シャフト/制作 アニプレックス/パッケージ発売

魔法少女まどか☆マギカ 作品情報

〈物語〉シリーズ

新房昭之/総監督 尾石達也・板村智幸/監督 シャフト/制作 アニプレックス/パッケージ発売

〈物語〉シリーズ 作品情報

PROFILE

新房昭之しんぼう・あきゆき

アニメーション監督、演出家。2004年からはアニメーション制作会社・シャフトを拠点に活動。『魔法少女まどか☆マギカ』「〈物語〉シリーズ」『ニセコイ』など数々の人気作品を手掛けている。