スペシャルレポート Vol.11 世界累計1400万部超!『ソードアート・オンライン』 川原礫

 今回、ライトノベル部門にノミネートされた『ソードアート・オンライン』(電撃文庫刊)は、主人公の少年・キリトがバーチャル・オンラインゲームにとじこめられるところから始まるいわゆる“ゲーム小説”。発売からわずか5年で国内累計発行部数1000万部を突破し、中国、台湾、韓国、タイ、アメリカでの発行部数を含めると、1400万部を突破する超人気作品だ。TVアニメ化作品はアニメ部門にもノミネート。今年7月には、TVアニメ第二期放送に先駆けて、世界各国先行上映会「ソードアート・オンラインⅡ ワールドプレミア」が、アメリカなど6ヶ国にて開催された。いまや世界中を席巻する『ソードアート・オンライン』の魅力について、川原さんにお話をうかがった。

カルチャーギャップを乗り越えて支持される喜び

――『ソードアート・オンライン』の人気は国内にとどまらず、いまや世界中のファンに愛されている作品です。ご自身の作品をはじめ、日本のコンテンツが世界に広まっていくことについては、どのようにお考えですか?


川原 国によってそれぞれ文化が異なりますし、日本人の感覚が通用しない部分もあるので、作品を読んだり観たりしていても違和感を持たれることは多々あるだろうと思います。たとえば『ソードアート・オンライン』のアニメ第1期が放送された後、アメリカのマスメディアの方から「ヒロインであるアスナの扱いはちょっと男性優位的なのではないか?」とご意見をいただいたことがありました。アスナは主人公・キリトがオンラインゲーム上で出会う少女なのですが、確かに彼女は長いあいだ囚われの身になったり、キリトをサポートする側にまわったり、自分から行動し活躍することが少ないんですね。でも、日本でライトノベルを書いたり読んだりするときにそこを強く意識することはないので、とても新鮮でした。言われてみれば、ハリウッド映画にはただ守られるだけのヒロインってあまりいないなあ、と。そこには大きな文化の違いがあるのだということを改めて認識したのですが、そうしたカルチャーギャップを乗り越えてもなお、『ソードアート・オンライン』という作品を海外で多くの方が応援してくださるというのは、非常にありがたいことだと思いました。


――実際に海外読者の反応をダイレクトに感じられることはありますか?


川原 私はTwitterをやっているので、直接そこに英語でリプライをくださる方は多くいらっしゃいます。基本的にはとても好意的な意見が多いのですが、時には納得できなかったり疑問に思ったりしたことを質問してくださる方もいらっしゃいます。別作品の話になりますが、同じく電撃文庫で刊行中の『アクセル・ワールド』シリーズに関して、「ハルユキは、主人公にしては小さすぎるし太りすぎではないか?」とご意見をいただいたこともありました(笑)。あとは、キャラクターや固有名詞を英訳するとどのような意味になるか、というようなこともよく聞かれます。アメリカもオンラインゲームがとても盛んな国なので、おそらくは『ソードアート・オンライン』や『アクセル・ワールド』のデータベース的なものをつくってくださっているんじゃないでしょうか。


――海外のファンの方々は、小説とアニメ、どちらを先にご覧になっているのでしょうか?


川原 アジアはともかくとして、北米においては圧倒的にアニメですね。『アクセル・ワールド』は英訳されていませんし、『ソードアート・オンライン』も昨年英訳されたばかりなので。もともと、北米におけるライトノベル市場というのは厳しいんですよ。イラストが入っているのでどうしても子供向けだと思われてしまうのですが、そのわりに内容は、大人が子供に読ませたいと思うような内容ではないことも多いので、売り手側がターゲットとなる読者層を想定しにくいのでしょう。
 ただ、Yen Pressという向こうの出版社の方がおっしゃるには、ライトノベルの受け止められ方はずいぶんと好意的になってきているそうです。ライトノベル原作のアニメが、アメリカでも数多く放送されるようになったので、その原作小説もだんだん認知されてきているんじゃないでしょうか。ライトノベルという言葉自体は日本のものですが、北米にだって若者向けの小説を受け入れる土壌はあるはずですから。少し前に流行って実写映画化された『トワイライト』シリーズも、ある意味ではラノベ的な要素のある作品ですよね。日本のライトノベルもそういう類のものなのだと理解していただければ、市場ももう少し広がっていけるのではないかと思います


――アメリカで開催された「ソードアート・オンラインⅡ ワールドプレミア」に行かれたとうかがいましたが、現地での反応はいかがでしたか?


川原 とにかく反応がストレートで驚きましたね。キャラクターが出てきただけでどっと歓声が沸きますし、ギャグシーンでは笑い、気にくわないキャラが出てくるとブーイングが起きる。話に聞くと、向こうでは試写会などのイベントだけでなく、映画館にいてもそうらしいので、そういう文化なのでしょう。あとは、キリトがのちに死んでしまうサチという女の子に「キミは死なない」と言うシーンでどっと笑いが起きていたのも印象的でしたね(笑)。フラグ立ててるよ!と思ったのでしょう。そんなことを言われたら死ぬに決まってるじゃないか、と。ホラー映画でもそういうお約束はありますし、海外の方はブラックユーモアがお好きなのかもしれません。まあ、日本の方も表に出さないだけで、心ではそういうシーンでくすくす笑っているのかもしれませんけどね(笑)。


読者との絆を深めた「オンライン小説」という形態

――川原さんは、もともと自身で運営しているWEBサイトで連載していた小説を改稿したものを応募し、デビューされました。これほど読者を惹きつける作品を生み出し続けているのは、掲載した直後から読者の反応がダイレクトにわかる、その形態で書き続けていたことも大きいと思うのですが、いかがでしょう?


川原 それはありますね。1話掲載するたびに掲示板などに感想を書き込んでいただけるので、それが書き続けるモチベーションになっていました。それから、オンライン小説では、文庫本にすると5~10ページくらいのボリュームの話を細切れにアップしていくんですが、次回の更新も読んでもらうためには、その短いボリュームの中に引きとなる場面を必ずつくらなきゃいけないんです。ストーリーの起伏はもちろん、ゲームのシステム面やアイテムの説明、主人公の感情など、本になったときには読み飛ばしがちな部分でも細かく書き込んで、読者さんの興味を惹かなくてはならない。そういうなんてことのない描写を、いかに面白く読んでいただくかということには常に気を配っています。


――ゲーム内ではおなかがすくのか、食べ物はどんな味がするのか、アイテムはどんなふうに購入するのか、そうした世界観のひとつひとつに強い説得力があるので、読者はより作品に没入していけるのだと思います。


川原 私の場合は、作品内に出てくるアイテムやキャラクターなどのアイディアを頻繁に読者さんから募集していたので、より読者さんと距離の近い、踏み込んだ構成をしているところも大きいでしょう。商業化してからは、もちろんあまり気軽にそういうことはできないんですけれど、出版社にお願いして似たようなことはしています。たとえば『アクセル・ワールド』ではアバターを、『ソードアート・オンライン』でもソードスキルなどを読者さんの皆さんから募集をしました。そういう読者さんとの一体感は、商業デビューしてからも保ち続けたいと思っています。そのためにも、読者さんが想像する余地が大きいものを書いていきたいですね。自分がこの世界にいたらどんなふうに過ごすだろうとか、大きく自分がこの世界を使って物語をつくるとしたらどんなことが起きるだろう、という想像を膨らませることができるような。


――読者との絆を、自ら紡ぎたいと思われたきっかけはなんだったのでしょう。


川原 連載しはじめた当初は、オンライン小説というのはそれほど一般的ではなくて、パソコンで小説を読もうという人も決して多くはなかったんです。そうした狭い世界でいかに読者さんに楽しんでもらうかということを考え続けていくうちに、自然とそうなりました。もちろん、どんな作家さんでも読者さんの存在は強く意識しているとは思いますが、意識し続けながら書くというスキルはオンライン小説を連載していたからこそ培われたものだと思います。


夢は、いつか何千人が一緒にプレイできるゲームになること

――オンラインゲームをテーマに選んだのは、やはりご自身がお好きだったからでしょうか?


川原 そうですね。今でこそスマートフォンを使ってどこでもだれでもオンラインゲームを楽しむ時代になっていますが、私が本格的にオンラインゲームをやり始めた1999年ごろは、やっている人がまだあまりいなくて。こんなに面白くて魅力的なのになあ、と思ったときに、だったら自分がこの世界を舞台にしていつか小説なりマンガなりのフィクションを書いてみようと意識し始めたんです。あとは、元を取りたいという気持ちもどこかにありましたね(笑)。オンラインゲームに費やした時間とお金を回収したいと。普通に考えたらそんなことはできないのですが、これをネタに作品を生み出すことができればそれができるだろうと。
 ただ、今は誰もがゲームを気軽に楽しめるがゆえに、読者さんの垣根が下がってきていると同時に、いいかげんな嘘がつけなくなってきました。ですので、なるべく現実のゲームとして存在してもおかしくないものとして、システムや世界観をつくりあげてはいるんですが、本職のゲームデザイナーではないので、どうしても違和感があったり、描写がぬるいと思われたりすることもあるでしょう。ただ、そういう本格的にゲーム世界にいる方々だけを読者さんとして想定してしまうとニッチな作品になりすぎてしまうので、ゲーム小説ではあるけれど、基本的にはキリトやアスナが生きている物語なのだということを忘れないようにしています。


――だからこそキャラクターが魅力的で、性別や年齢層を問わず幅広く受け入れられ、小説上に存在するゲームをキャラクターと一緒に楽しめるのだと思います。


川原 通常、ゲームをテーマにすると、必然的に主人公とリアルが対立していってしまうんですよ。なぜなら、ゲームだけをしていては人は生きていけないからです。主人公が学生なら学校生活を送らなくてはいけないし、社会人なら仕事をしなくちゃいけない。ゲームに情熱を燃やせば燃やすほど、どうしても犠牲にするものが出てきてしまいます。だけど私は、そういうゲームのネガティブなところをあまり書きたくないんです。それは私があえて書かなくても、読者さんが実生活で現実に晒されているストレスでありプレッシャーなので、作品で描かれるゲーム世界は、ある種のユートピアであってほしいという願望があります。
 そうはいってもリアリティは必要なので、「いつまでもゲームしてるんじゃない!」と注意するお母さんが出てきたりすることはあるのですが、最終的には、ゲームというのは消費するだけのものではなく、得られるものがちゃんとあるということを着地点にしたいと思って書いてます。読者さんも、ゲームをやりすぎて主人公が破滅するような物語は読みたくないでしょうしね。もちろん、オンラインゲームにハマって、なんでもできてしまう自分に酔いしれて、調子に乗っていくうちにどんどんピンチになって、ゲームの中でさえ破滅して、「ネットばかりやっていたらだめだな、現実でもっとがんばらなきゃ」というような結論に帰結するのが、ゲーム小説としてはリアルで正しい展開だとは思うんです。でもそんな話にはしたくない。「現実世界なんていらない!」とはさすがに言えないので、バランスよく、せめて双方両立する世界を書いていきたいです。


――川原さんご自身が体感したい、やってみたいゲーム世界を書いている、というところもあるのでしょうか?


川原 むしろ、まずはそこがスタート地点ですね。もちろん、プレイヤーを閉じ込めたいとは思わないですけど(笑)。担当編集者さんは、ハリウッド映画化されるのが夢というようなことをおっしゃっていますが、私はその前に、本物のオンラインRPG(ロールプレイングゲーム)になってほしいですね。すでにゲーム化はされていますが、それは一人でプレイするものなので、作中にあるとおり何千人もが同時にプレイして一緒に遊べるようなゲームになってくれたらいいなというのが一生の夢です。


――ライトノベルでゲーム小説というカテゴリーではありますが、正統派のファンタジー小説としてもぜひ海外の方に広く読まれてほしい作品です。


川原 そうなってくれると嬉しいですね。アメリカの作家であるディーン・R・クーンツが著書『ベストセラー小説の書き方』のなかで「主人公が立て続けにピンチに陥り追い込まれていく、その形こそがエンターテインメントだ」というようなことを言っていて、私の作劇手法というのはそこに由来しているところがあります。ですが、キャラクターがとことん虐げられている『アクセル・ワールド』とは異なり、『ソードアート・オンライン』では、キリトにはあまり、読んでいてつらくなるような試練は与えたくないと思っているんですよ(笑)。もちろん彼も悩むことはありますし、苦しまないわけではありませんが、たとえばアスナをぽっと出の男に奪われてフラれるなんてことがあったら読者さんはショックを受けるだろうし、作品から離れていってしまうだろうと思うんです。もちろん私もそんな展開は絶対書きたくないですが。そういう、読者さんに与えて許されるストレスの境界線のようなものを探りながら書いているところはありますね。
 私は、ライトノベルというジャンルができる以前の、SFやファンタジーといったジュブナイル小説をたくさん読んで育ってきました。テーマはオンラインゲームですが、少年が冒険するわくわく感を描きたいという気持ちが根底にあります。『ソードアート・オンライン』はいま15巻まで出ていて、まだあと何年かは続いていくと思いますので、読者のみなさんも、最後の日がくるまで、彼と一緒に楽しく冒険していってください。



(2014年10月20日、都内某所にて/取材・文=立花もも 撮影=藤井徹)

作品紹介

『ソードアート・オンライン』1~15巻

川原礫/著、abec/イラスト

KADOKAWA 電撃文庫

ソードアート・オンライン 作品情報

PROFILE

川原礫かわはら・れき

1974年、群馬県生まれ。2002年より、九里史生(くのり・ふみお)名義で自身のWEBサイトにてオンライン小説を発表開始。2008年、『アクセル・ワールド』(サイト掲載時は『超絶加速バーストリンカー』)にて、第15回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。翌年には、同様にサイトに掲載していた『ソードアート・オンライン』シリーズの刊行が電撃文庫から開始される。2011年には、アスキー・メディアワークス創立20周年記念作品として同2作のテレビアニメ化とゲーム化が発表される。