スペシャルレポート Vol.7 20周年を越えて さらに世界へ飛翔する セーラームーン

 1992年に『なかよし』で連載が開始された『美少女戦士セーラームーン』は、アニメ、映画、ミュージカル、グッズ、ゲームと多面展開し、またたく間に人気を集め、一大ブームをつくりあげた。そして今年7月より「美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト」の一環として、新アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』として生まれ変わり、ニコニコ動画をはじめとする動画配信サイトにて全世界同時配信をスタート。国内外を問わず世界中の人々の心を鷲づかみにしている同作の魅力とプロジェクトについて、『Crystal』プロデューサー・神木優さん(東映アニメーション)、連載スタート時からの担当編集者として知られる小佐野文雄さん、ライツ事業局の土屋潤一郎さん(ともに講談社)にお話をうかがった。

『セーラームーン』が12ヶ国語で世界同時配信!

――新アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』への反響はいかがですか?


土屋 ありがたいことに、第1話を配信してから2日間で100万PV(視聴)を突破しました。ニコニコ動画で12ヶ国語の字幕対応していただいたことも大きいとは思うのですが、寄せられたコメント数も国内外あわせて25万を超えまして。最初にYouTubeでプロモーションビデオを流したときは600万回以上再生され、そのうち半分以上がアメリカなど海外からのアクセスというデータが出ていたので期待はしていたのですが、正直、想像以上の反響に驚いています。おかげさまでHuluの配信でもトップ10に入りましたので、これからもっと広めていかなくてはと身を引き締めているところです。


――この20年で原作コミックは17ヶ国語に翻訳され、旧作のテレビ版アニメも40以上の国で放映されていたということですが、当時からその人気は実感されていましたか。


小佐野 そうですね。海外版コミックだけで1千万部以上は売り上げていますから。ただ、国によって浸透した時期は様々なんですよ。原作に関して言いますと、最初に人気が出たのは香港、台湾、韓国などのアジア諸国、それから欧州のスペイン、イタリア、フランスあたりのロマンス語系の国々でした。当時のヨーロッパはフランスを中心にバンド・デシネという芸術色の強いマンガの影響が大きくて、日本のマンガもどちらかというとアートに近いものとして、フランスの感度の高い人々に読まれていたんですね。『セーラームーン』や『ドラゴンボール』などがおしゃれな書店に置かれ、異国文化に触れたいという先進的な方々に注目されていたんです。その後、アニメーションが放映されたことで、より一般的に広まりました。イタリアでは国営鉄道のキャラクターになったりもしたんですよ。
 ただ、やはり国が違えば文化も感覚も異なるので、日本では大丈夫なものが海外ではだめ、ということもありまして。たとえば印象に残っているのは、海野くんというガリ勉キャラクターに、イタリアでNGが出たこと。主人公のクラスメートなんですが、彼のかけているグルグル眼鏡の描写が差別的だと言われ、アニメーションでは訂正を余儀なくされました。また、そもそもゲルマン語系の方々に受け入れられなかったのも、“家の中をはだしで歩く”文化が信じられないと拒絶反応が出てしまったせいもあります。イタリアでは、ご本人たちいわく「自分たちはいい加減だからそのあたりはどうでもよかった」らしいんですけどね(笑)。
 だけど1998年ごろにはドイツでも人気が出まして、あっというまに爆発的に売れていきました。アメリカでは、2000年ごろに一度上陸してつまずいているんですよ。『AKIRA』や『攻殻機動隊』といったアーティスティックな作品はインテリ層などの限られた人たちにウケていたんですが、なかなか普通のマンガ・アニメが参入していくのはむずかしくて。ところが2~3年前に新しく売り出したところ今度は売れてくれまして、そこから派生して今は南米の方々にも人気がありますね。


――以前、藤本由香里さんにお話をうかがった際、ドイツの出版社・カールセンが取り扱うマンガを日本のものに切り替えたら売り上げが40倍近くになったとおっしゃっていました。それを追いかける形でエグモント・エハパ社が『セーラームーン』を出版したら、それまで自分たちの読み物を持たなかった現地の少女たちが飛びついたと。アメリカでのタイムラグはどうして発生したのでしょうね。


小佐野 これは私の持論なんですが、音楽業界においてもパンク・ロックは、ヨーロッパのほうがアメリカに比べてわりあい早く広まったんですよ。アメリカでは、根づくのに10年くらい時間がかかっている。そもそも国全体の土地が広大だということもあるでしょうし、アメリカには確立されたビジネススキームがあるので、外から新しいものが入るには時間がかかるんじゃないでしょうか。


神木 ですが、20年前の当時はさておき、今や、グッズもパッケージも含めて海外の売れ行きのトップが北米ですね。もちろんまだまだ拡がるとは思うのですが、かなり浸透してくれていると思います。


土屋 昔はアメリカに売り込んでいく際にはエージェントにお願いしていましたしね。アメリカへアニメを運んでいけるのは担当の一人だけで、なにか一つ売れてくれたらそこに他の作品も便乗して輸出するという、いわゆる抱き合わせ商売の形をとっていました。またアメリカでは、日本のアニメは三大ネットワークにのせてもらえず、CS放送のみということもあって、浸透には時間がかかったのでしょう。それでもCS放送は広く普及していますし、東映アニメーションさんをはじめ、各社が地道に売り込んでいったおかげで、今の結果につながったんだろうと思います。

全世代の女子を取り込んだ『セーラームーン』のスゴさ

――日本においては、『セーラームーン』は魔法少女系の戦隊モノの先駆けとして、新しさをもって受け入れられたと思うのですが、海外においても同じだったのでしょうか。そもそもこの作品の魅力はどんなところにあるのでしょう。


小佐野 国内の話で言うと、昔からある魔法少女モノとは一線を画していて、“戦う少女”であるところに新しさがありました。これは結果論ですが、ちょうど当時は女性が社会進出しはじめた頃で、原作者の武内直子さんもそういう空気は察していたんだと思います。とはいえメインターゲットは子供たちですから、彼女たちが当時、それをリアルに感じていたということはないでしょう。それよりもむしろ大人になった彼女たちから「今になって実感する」「あの頃と同じように私は戦っています」という声をいただくことが多いですね。


神木 男の子たちには昔から戦隊ヒーローモノというジャンルがありましたが、おそらく、潜在的に女の子たちのなかにも、自分たちがなれそうな強いヒーロー像という憧れがあったのでしょう。これは公式見解というわけではなく、あくまで私個人の意見なのですが、『セーラームーン』には強くてかっこいいとか、運命の相手との恋をするとか、プリンセスとお城だとか、女の子が本能的に憧れる要素がたくさんつまっているんですよ。色使いやファッション性も含め、そうした要素すべてが武内先生の独特のセンスでデザインに落とし込まれているのも魅力のひとつですし、バンダイさんから当時発売されたおもちゃも、作品の抱き合わせとして存在したというより、おもちゃ自体が作品を象徴するといっていいほどのデザイン性をもって昇華されていました。
 また、原作の連載開始は1992年2月号(1月発売)、アニメの放映開始は同年3月と、ほとんど同時に始まっているんですよ。『なかよし』において一番大人っぽい、お姉さんが読むような作品だった『セーラームーン』を、アニメを観ることで幼稚園児も一緒に楽しめる。3歳児からローティーンまでが夢中になれたというそのファン層の広さも、作品の人気を押し上げた理由の一つだと思いますね。


小佐野 『なかよし』のメインターゲット層は小学校4年生から6年生くらいの女の子。小学校低学年から増え始めて中学生になるとちょっと減る、という傾向があったんですが、『セーラームーン』が始まったことで、小学1年生から中学1年生まで、層の厚みが同じくらいになりましたね。その結果、雑誌の売り上げも200万部を突破しました。


――それだけ幅広い層をとりこむ作品というのは、ほかにも存在するのでしょうか。


神木 あまりないですね。現在に至ってもとても稀で、すごいことだと思います。
 マンガとアニメが同時ということは、武内先生がまだネームを書いている段階でアニメも進行させなくてはいけないということ。マンガ掲載は月に1回ですが、アニメは週に1回、月に4回ですからね。ですからそのぶん、1話完結型のエピソードをつくったり、同じ時間帯で直前に放送されていた『きんぎょ注意報!』がコメディタッチだったので、その流れを汲んでアニメのなかにギャグを入れて楽しませたり、ほんの数秒の変身シーンをいかに魅力的に見せるかが考えつくされていたりと、アニメ単品としてのクオリティがとても高く、もちろんマンガそれ自体がそもそも非常におもしろかったというのは大前提なのですが、当時のスタッフの力量を思い知らされます。先述したようにおもちゃのデザイン性も高く、さらにのちに制作されたミュージカルや実写ドラマをはじめ、原作から派生してつくられた作品各々が輝いていたからこそ、総合してファン層が広くとれたのでしょう。なおかつそれを数年かけて継続的に行ったことで息の長い作品になったのだと思います。


――浸透した時期がずれているとはいえ、海外でも受け入れられた理由はどこにあると思いますか。


小佐野 その分析はけっこうむずかしいんですけどね。どの作品も始めるときは全部売れるようにと臨んでいますし、海外を特別意識していたわけではないので。ただ、ストーリー構成には基本的なラブロマンス、たとえば『ロミオとジュリエット』のようなベーシックな型になるよう通底させるようにはしているので、基本を守っているという点では、誰もが受け入れやすい作品にはなっていたんだと思います。セーラー服という日本特有のコスチュームも真新しかったのかもしれません。もちろんそういった要素を持つ作品は後続してたくさん出てきましたし、『セーラームーン』だけがそうした特性を持っているというわけではありませんが、様々な要素が結合してくれた結果だと思います。
 ファッション性も非常に高いですしね。先ほどからデザインの話がよく出ていますが、戦士たちの色がそれぞれちがったり、かわいいアイテムが数多く出てきたり、そういったところはウケている理由のひとつかもしれません。新作アニメのメインターゲットは、子供のころにアニメを観てくれていた25~35歳の女性ですが、その世代の方で、現役のファッションリーダーをされている方々が『セーラームーン』が好きと公言してくださることも多いんです。モデルのローラさんも小学4年生のころからファンだったということで、『ViVi』誌面でコスプレを披露してくれました。そうすると、彼女たちに憧れる20代前半はもちろん、10代以下の若い女の子たちも興味を持ってくれる。そんなふうに今、じわじわとファン層は広がっていっているところです。

世界に通用する、普遍的な作品となるように

――海外のファンもやはり、日本と同じく25~35歳の女性が多いのでしょうか。


小佐野 先ほどから申しているとおり放映時期が国によって異なるので「この世代です」ということはありません。アメリカでは今まさに盛り上がってきているという感じなので。ただ、「小さい頃に観ていて大好きでした」といファンが多いという点では国内外問わず共通しているとは思います。


――アニメ以外には、どんな海外展開をされているのでしょう。


神木 ニコニコ動画さん以外でも北米の配信業者と提携していまして、そこでもお客さまが集まっているという報告はいただいています。グッズもかなり展開されていますね。とはいえ、日本のグッズを輸出するということではなくて、旧作のころから現地のメーカーと提携して海外オリジナル商品も多数販売していますし、今回も『Crystal』版の商品化を進めています。


小佐野 私のTwitterに宛ててお問い合わせや感想をくださる3割くらいが海外の方なので、情報もすぐに入ってくるんですよ。ネット社会というのはボーダレスなので、生の声が直接伝わってくる。今度のこの商品はいいとか、あれをなんとかしてほしいとか。もちろんすべてにお返事ができているわけではないですが、私のところだけにも無視できない数の反響をいただいていますので、各国に配慮して進めていかなくてはなと思っています。


――アニメの内容については、何か気をつけていることはありますか。


神木 マンガと同時進行だった旧作と異なり、今回は、たとえば作品にちりばめる布石をふくめてすべてつくりなおすことができました。ですので、“リメイクだから”、“海外に発信するから”、ということを特別意識するのではなく、むしろ“『美少女戦士セーラームーン』というマンガを初めてアニメにする”ような気持ちでやろうということを、スタッフと共有しています。とはいえ、旧作を観ていた方々にももちろん移行して観ていただきたいですし、まるで違うものをつくって昔のお客さまをむげにするようなことは絶対にしたくありません。主人公のうさぎちゃんの声は、旧作と同じ三石琴乃さんにお願いしたり、爪が塗られるところから始まる変身シーンはそのままに残していたり、変えるところは変え、残すべきところは残すようにしています。昔のお客さまを含めて『セーラームーン』は形づくられているので、そういうすべてを、原作中心に表現していきたいと思っています。


小佐野 実はももいろクローバーZが歌うオープニング『MOON PRIDE』も、前作オープニングの『ムーンライト伝説』を多少なりとも意識して制作された曲なんですよ。前作ファンも違和感ないようなつくりになっている。おかげさまで、カナダやメキシコの音楽チャートではワールドチャートのトップセールスを記録しましたし、USAナショナルチャートでも100位以内に入ったという快挙。本能的にみなさんわかってくれたんじゃないかと思いますね。


――国によって放送時期もユーザーの年齢層も異なる作品を、新たに世界同時配信するというのはとても新しくチャレンジングな試みだったと思うのですが。


神木 リメイクするにあたって「世界同時配信」と銘打ちたかったっていうのはあるのですが、それができるだけの魅力と可能性を備えたコンテンツだとも思っていました。アニメのグッズを女性が買うというのはかなり珍しいことだと思うんですよ。その分、アニメーションとしてはすごく難しい層に刺さる作品だと自覚しているので、しっかりブランディング化してさらに息の長い作品にしていきたいと思っています。


小佐野 もともと「20周年プロジェクト」としたのも、「20周年だからなにかやろう」ということではなく、向こう10年さらに続けて行けるようにという想いからなんですよね。世界でバラバラに展開されていたものをこのアニメをもってまず一度、きれいな形でひとつにまとめたい。そして、世界に通用する普遍的なコンテンツになるようにがんばっていきたいと思っています。


土屋 プロジェクトが起ちあがったのは2012年。去年、先行してミュージカルが始まり、今年やっとアニメ放映が開始しました。来年1月には、ミュージカルの上海公演も決まっています。この後は映画があるかもしれないし、地上波放送があるかもしれないし、特別なイベントを開催するかもしれない。10年計画からすれば本当にまだまだ始まったばかりなので、スタッフ一丸となって『美少女戦士セーラームーン』を世界に広げていきたいと思っています。




写真左より、土屋潤一郎さん(講談社)、神木優さん(東映アニメーション)、小佐野文雄さん(講談社)


(2014年8月12日、講談社にて/取材・文=立花もも)

PROFILE

神木 優かみのき・ゆう

東映アニメーション企画営業本部テレビ企画部テレビ室プロデューサー。『美少女戦士セーラームーン Crystal』のプロデューサーを務める。

小佐野文雄おさの・ふみお

講談社第3編集局新コミック誌研究部部長。連載当時より『美少女戦士セーラームーン』の担当編集者。

土屋潤一郎つちや・じゅんいちろう

講談社ライツ事業局ライツ企画部副部長。『美少女戦士セーラームーン』に関する版権を管理。


【美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト公式サイト】

http://sailormoon-official.com/