スペシャルレポート Vol.6 アニメ、実写映画、展覧会、その激震が世界へ拡大する 進撃の巨人

 人類を補食しようとする巨人に対し、少年兵たちが決死の反撃に挑む――。当時23歳だった新人マンガ家の連載デビュー作『進撃の巨人』が、今や4000万部突破の大ヒットだ。マンガ界の新たなレジェンドとして語られる本作は、作品自体の面白さだけでなく、メディアミックスの大成功により世間の注目を集めることになった。今や翻訳本やアニメが海外にも届き、世界規模で熱狂の声が巻き起こりつつある。11月28日(金)からは、東京・上野の森美術館で『進撃の巨人展』が開催決定。震源地の中心にいる作者・諫山創に、現状報告をお願いした。

アニメを見たことで変化が起きた
最近、目玉商品が出てこないんです(笑)

――コミックス14巻(2014年8月刊)で、累計発行部数4000万部を突破しました。何故ここまでメガヒットになったんでしょう? 読者の声もたくさん耳に入るようになったと思うんですが、実感されていることはありますか。


諫山 絵はヘタだし、グロいし、読む人を選ぶタイプの作品。でも、なぜか売れてるらしい。それを「なんでだ?」と思って確かめようとした結果が、倍々ゲームみたいになって数字に表れてると思うんですよね。自分が何かしたわけでもなく、自然とその装置ができ上がってしまってる。ラッキーだったと思います。


――アニメ化(2013年4月〜10月)によって、部数が倍増したと伺っています。原作マンガを読んでいた人も、アニメを見ることで、この作品の魅力に気付き直した人も多かったと思うんです。例えば立体機動装置(巨人に対抗するために人類が発明した飛翔兵器)の表現は、アニメを見てからマンガを読むと、キャラクターたちが飛び回るスピードや躍動感が以前より倍増したと思います。


諫山 そうですね。むしろ僕は、アニメの荒木(哲郎)監督ほど立体機動装置というギミックの可能性を感じることができていなかったのかもしれないです。荒木監督のほうが、このギミックの持つ魅力を信じていた。「こんなに面白いものなんだぞ」って、アニメに教えてもらう感じがありました。あと、アニメを見たおかげで、キャラクターの性格が変わったりもしているんですよ。本編で再登場させた時に完全にアニメのキャラクターになっていて、「こんなやつだったっけ?」って(笑)。キャラクターの過去のエピソードとかも、アニメの打ち合わせをしてるうちに、自分の中でいろいろと気付いたり変化があって……。実は最近、巨人が出てこないんですよね。


――気付いていました(笑)。13巻と最新14巻収録話は、人間たちをクローズアップされていますね。


諫山 目玉商品が出てこないんです(笑)。覚悟はしていたんですよ。緩急をつけるというか、巨人を使った話のピークは描いておいて、そこから先はまた別の魅力を提示しなきゃいけないと。それってすごく難しいけど、いけるかなと思ったのは、アニメのイベントがあったことなんです(Reading&Live Event『Attack 音 体感』、2013年10月12 日@横浜アリーナ)。声優さんがキャラクターを演じる朗読劇があったんですが、それを見て「もしかしたらキャラクター達が話してるだけで面白いんじゃないかな?」と。「キャラクター達が四苦八苦する姿というのも、巨人に替わる、もうひとつの目玉にできるんじゃないか?」と目論んでやったんですけれども、個人的にはなかなか手応えを感じてなくてですね……。


――いやいや。少年達の決断のドラマと、騙し騙されのコンゲームが相まって、面白いですよ!


諫山 今のシークエンスは、もともと考えてあった終わりまでの設定に沿って、やらなきゃいけないことをやってるって段階なんです。義務っぽく感じちゃってるからなのかな……。実力もままならないまま、大変なことを始めてしまって、知られてしまって。本当にありがたい状況なんですが、ここ最近は破滅願望が強まっているんです。いっそダメになっちゃってもっていいんじゃないか、と。


――ここから先は、今まで築き上げてきたものをぶち壊すぞと?


諫山 作品として、完成度は高めたいんです。僕は絵がヘタだし、キャラクターを作るのも得意ではないんですが、ストーリーに関しては気持ちが入ってるんですね。だから「ちゃんと完成させたい」「ちゃんと終わらせたい」っていう欲求が今、一番強いという状態です。それはありつつも、読者をなんとかして裏切ってやりたいという悪意みたいなものもあります。プラス、期待にも応えたいという、よくわからない気持ちです。


――『進撃の巨人』の読者って、想像を裏切られることに慣れているというか、むしろ期待してるんじゃないかと思うんです。その意味では、今の言葉に矛盾はない気がします。


諫山 そうかもしれないですね。期待を裏切ってくれるだろう、という期待に応えたいって感じかもしれないです。


超大型巨人が「何」かは決めていたが、
どこを怖がっているかは分からずに描いていた

――さきほど、巨人を「目玉商品」と表現していたのが印象的でした。そもそも巨人という存在を描こうと思ったきっかけは?


諫山 子供の頃から、巨人が出てくるエンターテインメントが好きだったんですけど、一番大きなきっかけは19歳の時、PCゲームの『マブラヴ』をやったことですね。おもいっきり、元ネタです(笑)。絶滅寸前の人類+おっかない化物がいたらまず楽しいんじゃないかっていう。一定の楽しさが保証されている気がするんです。巨人と人類という設定を作るうえで参考にしたのは、『坂の上の雲』(司馬遼太郎)でした。絶望的な状況で、どうやって人々が最善の全力を尽くし、結果的にどうやって勝利を勝ち得たかっていう部分で、すごく参考にしています。


――巨人のデザインに関してはどうでしょう?


諫山 マンガ家として食っていけるかどうかを考えた時に、「これがあれば生活できるんじゃないか」と思えるところまで、巨人のデザインにはこだわろうと。モンスターっぽいんじゃなくて、なるべく人間に近付けようと思いましたね。近親憎悪的な嫌悪感というか。生物は同種を食うことを本能的にタブーとしている。人間でいえば、ライオンに食べられるより、チンパンジーに食べられた方が嫌じゃないですか。チンパンジーが人間に近いからだと思うんですよ。それでいうと、人間はもっとヤバい。


――主人公エレンにとっての仇敵である超大型巨人は「何」かという謎の答えは、最初から決まっていたんですか? 第1話の段階で、今に至る物語の地図はどれくらい描いていたんでしょう。


諫山 「何」かは、最初から決めていました。初めて読んだ時は分からないかもしれませんが、2回目に読んだ時に別の意味に取れたらいいなと思って、第1話の段階で伏線らしきコマも入れています。そういった仕掛けを最初から用意していないと、とてもマンガで食べていけるようになるにはならないと思っていましたから。知恵を使えるところは、使い尽くしたって感じはします。もっと伏線を入れても良かったかな、という反省はちょっとあるんですけど。


――当初は、「絵がヘタ」とか「絵がヘン」という声も聞かれました。巨人の手足が短かったり、顔のパーツのバランスが崩れていたりして。今振り返ると、そのいびつさこそこの作品の魅力です。


諫山 こんなこと言うのはお門違いなんですが、もし絵がうまかったら、今の評価にはなっていなかったかなと思います。「なんだこれ?」とはならなかったかも。ただ巨人に関しては、今ちょっと悩んでることがありまして……。


――なんですか?!


諫山 最初の頃は、自分はどんなところを怖がっているのか分からずに、無意識で「これだ!」と思うところを探り探り描いていたんです。最近気付いたのは、『地獄先生ぬ〜べ〜』の「人食いモナリザ」の回が、小学生の時に読んでトラウマで。顔が微妙にでかいモナリザがぐわっと絵から飛び出して、人をかじるってマンガだったんですけど、それが僕の感じる恐怖の元ネタだったんです。それが分かってから、もう前みたいには怖い巨人が描けなくなったんです(笑)。自分の中で感じる巨人の魅力が変わってきた、ということと思うようにしているんですけど……。

巨人展の準備、進行中!
そして“ももクロ運営”に宛てたメッセージ、公開

――11月28日からは東京・上野の森美術館で『進撃の巨人展』が開催されます。イベントに寄せた、諫山さんのコメントが最高でした。「本当に嫌な気分になりたい人も、興奮したい人も、是非楽しんで下さい!」(公式ホームページより)。


諫山 今日も巨人展の打ち合わせがあったんですが……最高に嫌な気分になりました(笑)。


――何があったんですか。


諫山 会場に設置される、ヘッドマウントディスプレイの映像を体験させてもらったんです。巨人に食べられるんですよ。未完成版で絵が荒削りというのも相まって、「これ食べられちゃうのかな? えっ。えっ!」という、何が起きてるのか分からない怖さが衝撃で……。ひとにとってプラスになるものやポジティブなものを与えてお金をもらうのが普通の商売だと思うんですが、イヤな気分にさせるっていうのは、これってなんだろうって思っちゃいましたね。たまに自分でもマンガを描いていて思うんですけど(笑)。


――恐怖を味わうことも、人間の欲求のひとつということなんでしょうか。


諫山 お化け屋敷とかジェットコースターも、イヤな目に遭うのは分かってますよね。それにお金を払っている……。今日も、みぞおちが震えましたもん。ヘッドマウントディスプレイの耳元が震えることで、手ががっと掴まえられる感触があったんです。実際に掴まれているわけではないのに、無意識に体が感じてしまうんです。自分の首の向きのさじ加減だけで視界が変わる、世界に入ってる感も、他の映像とは一線を画す革新的なものだなと思いました。同時に、“よろしくない”感じもしましたね。よくお年寄りの方が、「最近ゲームばっかりやってて、こんなんじゃ若者はいかん!」と言ってる気持ちがちょっと分かりました。


――どういうことですか(笑)。


諫山 相当昔、小説が出た時には「小説なんていかん!」と言ってる人がいたらしいんですよ。新しい表現メディアが出てきた時特有の“よろしくない”感じってあるんですよね、きっと。だって、ちょっと怖くないですか? 未来でみんながヘッドマウントディスプレイでかちゃかちゃやってたら……「テレビを見ろ!」みたいな(笑)。めちゃくちゃ面白いからしょうがないんですけど。


――巨人展は、ヘッドマウントディスプレイによる“360°体感シアター「哮」”のほか、短編映画の上映や原画展、リアルスケール超大型巨人の展示などがおこなわれると伺っています。


諫山 今までいろんな商品監修などをやってきましたけど、作ってる方々のセンスがすごいって感じています。ひとつひとつの企画の、「分かってる」感がすごいです。例えばヘッドマウントディスプレイの映像で言えば、「カットを割らない」。一連の、連続したものとして映像を作っているんですよ。僕は仕事場で常に“ももクロ(5人組アイドルグループ「ももいろクローバーZ」)”のライブ映像を見ているんですが、カットが多いと舌打ちする人間なんです。


――おっしゃる意味、すごく分かります(笑)。


諫山 (石川)ゆみ先生とメンバーが頑張って作った踊りなんだから、そんなにカットを割らずに、5人を長回しで映すのが一番だと思うんです。ももクロといえば持久的な、スタミナ的なところが見せ場だから、カットが変わるごとに臨場感も損なわれる感じがあるし。なんなら1回、全部長回しでぐいーんと動かすカメラ1台で、『Chai Maxx』とか『ココナツ』とか映してくれないかなあとずっと思ってるんです。今、完全にももクロの話になってますけど、この声が何となく届いたらいいなあと……。

アニメ、映画、展覧会……
マンガでは味わえない“よろしくなさ”

――海外でもコミックスが翻訳刊行され、アニメも放映されています。YouTubeやニコニコ動画で「外国人 進撃」と検索すると次々に出てくるのが、アニメをリアルタイムで見ていた外国人視聴者のリアクションです。第5話でエレンが恐怖の底に落ちるシーンでは、各国でこの世のものとは思えない絶叫が響き渡りました(笑)。


諫山 それ、僕も見ました(笑)。海外の人もメンタルは同じというか、むしろ同じものを日本人が見ても、ここまでのリアクションはしないんじゃないかと思いましたね。なんて純粋で、なんて屈託がないんだ、と。「それ、いいなあ」と思いつつ、想像以上のリアクションを見ることができてめっちゃうれしいです。いい時代ですよね。昔はものを作っても、受け手の反応がなかなか見られなかったわけですから。


――あの映像を見て思うのは、日本人か外国人かは関係なく、届くものは届くんだなと。


諫山 海外の人ほど、王道的なカタルシス、分かりやすいエンターテインメントが好きなのかなと思ってたんですが、それだけじゃないですよね。『ミスト』という映画が代表的ですけど、アンチカタルシスの方向にも徐々に興味が行っているのかもしれない。だとしたら『進撃の巨人』も、楽しんでもらえるのかなとは思います。あと、グロテスクなものに惹かれるのって、いいか悪いか別として、人間の持っている純粋な気持ちだと思うんですよ。社会的に“よろしくない”というか、“見ちゃいけません”とされているものが好きという気持ちは。


――2015年には実写映画版も公開されます。海を越えて広まっていくには実写映画が一番ですから、楽しみです。


諫山 特撮にこだわりのあるスタッフさんなので、映像がすごいことになっていますね。巨人展に映画、年末はアニメの総集編にあたる劇場版も公開されます。マンガでは味わえないような楽しさや“よろしくなさ”を、ぜひ体感してほしいです。



(2014年9月4日、講談社にて/取材・文=吉田大助、撮影=森浩司)

作品紹介

『進撃の巨人』1~14巻

諫山 創 講談社マガジンKC

中世ヨーロッパに似た生活環境のその世界では、人間達は巨人をはばむ高い壁を作り、平和に暮らしていた。しかし、全長50メートルを越える超大型巨人が仲間を連れて100年ぶりに来襲、少年エレンは、巨人が母親を食らう光景を目撃する。遺された人類がさらに内側の壁の中へとこもった頃、新兵となっていたエレンと幼馴染みのミカサは、再び巨人と対面する。さらなる惨劇の後、少年たちは人類最強の調査兵団と合流、「反撃」ののろしを上げる――。2011年、第35回講談社漫画賞少年部門を受賞。アニメ化やスピンオフコミック、ノベライズやさまざまな企業とのコラボなど、メディアミックスも多数。

PROFILE

諫山 創いさやま・はじめ

1986年、大分県日田市生まれ。高校卒業後、福岡の専門学校の漫画学科に進学。19歳の時に描いた短編が講談社・週刊少年マガジン編集部の月例賞を受賞、同作を元にした『進撃の巨人』で2009年に連載デビューを果たす。現在も「別冊少年マガジン」にて連載中。

「進撃の巨人展」のご案内

会期 2014年11月28日(金)~2015年1月25日(日)
会場 上野の森美術館(東京都台東区)
開館時間 平日は午前10時~午後5時。土日祝日と12月30日、31日、1月2日は午前10時~午後8時。会期中無休。
観覧料 一般・大学生2000円(前売り1900円)、中学・高校生1500円(前売り1400円)、4歳~小学生以下1000円(前売り900円)、3歳以下無料
入館時間 日時指定による予約制
問い合わせ ローソンチケット(0570-000-777または0570-000-407)
展覧会ホームページ http://www.kyojinten.jp/