スペシャルレポート Vol.5 コスプレイベント仕掛け人が明かすロシアが日本に夢中な理由

 世界中で愛されている、日本のマンガ・アニメ。その愛が深まり、作品世界により没入したくなった人々が生み出したのが「コスプレ」だ。2003年には、20カ国以上が参加する「世界コスプレサミット(WCS)」が愛知県名古屋市で誕生した。このWCSのロシア代表選考会を行うため組織されたのが、ロシアにおける日本のポップカルチャーフェスティバル「HINODE」。ロシアのコスプレは世界でも注目される完成度の高さだという。いったい何がロシアの若者たちを惹きつけるのか。同イベントのディレクターを務める、関屋智弘さんにお話を伺った。

ロシア人にとって、日本のコンテンツは“SUGOI”

――ロシアでは、日本のカルチャーはどのように受け入れられているのでしょうか。


関屋 これは案外知られていませんが、そもそもロシア人には日本の文化に好意的な人が多いんです。
 ロリータや、着ぐるみ、女子高生などのストリートファッションや、J-ポップやアニソンなど日本の歌も人気です。ですがやはり最たるものはアニメで、日本の高い品質をもったアニメコンテンツは、ロシアの若者の関心を引き続けています。ロシアにおいても日本のコンテンツは「SUGOI」のです。これは比喩でもなんでもなく、「SUGOI」「SUGEE」という言葉自体が、アニメファンの間で浸透しています。
 アニメやゲームのフィギュアも非常に人気で、昨年10月にはモスクワでフィギュア展示会「BIG SHELF 2013 in Japan House」が催され、愛好家が所有する1,500点以上のフィギュアを見るために、多くの人が訪れました。


――海外では、マンガより先行してアニメが浸透しやすいと聞きますが、やはりアニメのほうが人気なのでしょうか。


関屋 マンガも人気ですよ。私たちはモスクワで、現地法人の「セゾングループ」(※)とともに、マンガの講習会を定期開催しているのですが、毎回60名くらいの生徒がマンガ技術とノウハウ習得のため訪れています。ロシアでのマンガ産業は、版権の交渉に時間がかかるなどの問題もあり、ビジネスとしては難しい状況ですが、私たちの取り組みを通じてロシア産のマンガ家を育て、彼ら・彼女らが活躍できる職業機会を創出したいと思っています。


(※)「セゾングループ」=日本のセゾングループをルーツに持つロシアの現地法人。本家セゾングループの代表であった故・堤清二氏は、ソ連時代にロシアに進出し、日本とロシアの国際文化交流事業に献身した。同グループ解散後も、彼の意思を引き継いだ者たちが、ロシアでの日本文化普及の活動を目的とするロシア現地法人「有限責任会社セゾングループ」を設立した。


――ロシアで日本のマンガ・アニメが広まるきっかけとなった作品はありますか?


関屋 1995年に放送された『美少女戦士セーラームーン』の影響は大きいですね。今日までにおけるロシアの日本ファン――アニメ、コスプレ、歴史、文化、言語など日本のカルチャーすべてに関わるロシア人の多くが幼少時に見たこの作品に影響を受けたと語っています。そして2000年、『ポケットモンスター』が放送された年にロシアのボロネジ市で最初の本格コスプレイベント「全ロシアアニメフェスティバル」が開催されました。このイベントは今でもロシア最大のコスプレイベントとして地位を確立しています。

ロシア人のコスプレレベルが高いわけ

――関屋さんが、ロシアでコスプレイベント運営にかかわることになった経緯を教えていただけますか。


関屋 もともと、「セゾングループ」とともにモスクワで様々な日本文化イベントを共催していたので、ロシアでのコスプレ人気にも常々注目していました。その活動を通じて「世界コスプレサミット(WCS)」の存在を知ったのですが、2011年時点で17カ国が参加する世界的なイベントだったにもかかわらず、そこにロシアの名前はありませんでした。そこで、当時WCSを主催していたテレビ愛知(現在は株式会社WCSが主催)にアプローチをはかり、ロシア代表選考会の主催認定をいただきました。それをきっかけとしてコスプレイベント「HINODE」が誕生したのです。
 とはいえ、私たちが「HINODE」を仕掛けた2012年頃、ロシアでの日本のコスプレは下火になっていました。韓国や中国から輸入されるゲームや歌、ダンスなどが影響力を強めていたからです。ロシアで日本のコンテンツが草の根的に愛されていた一方、原産国である日本からの支援がなかったことも関係していると思います。
 ロシアでは全国で50にも及ぶコスプレイベントが存在していましたが、すべてロシア人の有志が主催するもので、日本は関わりを持っていませんでした。唯一、日本文化を包括的に取り扱う、在ロシア日本大使館主催の「J-fest」がロシアのコスプレイヤーをサポートしていましたが、それくらいでしょうか。
 そのような状況の中、私たちは「HINODE」を日本サブカルチャー公式イベントと位置づけ、日露の企業スポンサーや大使館の後援もいただきながら出発しました。入賞すればスポンサーからの豪華な賞品を獲得できるし、優勝すれば日本にいける。夢をつかむためにコスプレイヤーも創意工夫や努力を惜しみません。プロ意識すら感じさせるほどです。そのため衣装やギミック、パフォーマンスは年々レベルが向上しています。日本企業の参画はロシアのコスプレイヤーを多いに刺激しているのです。


――全国で50ものコスプレイベントが存在していたとのことですが、今でもイベントはロシア国内で数多く開催されているのでしょうか。


関屋 多様に存在していますね。中~大規模なものですと、年に一度、1~4日間にわたって開催されるものがいくつかあり、動員数は数百から3,000名程度にいたります。参加費がだいたい300~800ルーブル(約800~2300円)程度。小規模なものですと、クラブを貸し切って毎週のように行われています。こちらの参加費は200ルーブル(約570円)程度なので10代の若い人々の参加が多いです。(【参考資料】参照)
 たいていの初心者は、クラブイベントにまず参加します。そこで技術やパフォーマンスを磨いて、よりランクの高いイベントへの出場を目指します。



――ただコスプレをするだけでなく、競い合うことも多いのでしょうか。


関屋 そうですね。ほぼすべてのイベントでコンテストが開催されています。そこで賞を獲得するのがコスプレイヤーにとってのステータスであり、目標なんです。
 とはいえ、コンテストと一口に言っても、その形式はイベントによってさまざまです。(【参考資料】参照) たとえば人気のあるコンテストのひとつ「デフィレ」は、1分間の曲にあわせて1~3名程度の出演者がショートパフォーマンスを行うというもの。同じく人気の「フォトコスプレ」は、その名のとおりコスプレモデルを撮影するものですが、パソコンで画像処理を行い、より本格的に作品世界を再現しようとする傾向が見られます。
 コンテストに出場するには事前のオーディションを勝ち抜く必要があるため、必然的にコスプレイヤーのレベルもイベントの人気度にあわせて変化します。みなさん、自分が出場したいイベントの開催に照準をあわせてテーマを厳選し、意匠を研究し、素材を集めて制作に取りかかっています。
 特徴的なのは「コスバンド(コスプレ+バンド)」と呼ばれるグループで活動する人が多いこと。裁縫やメーク、ヘアドレッサー、シナリオライター、エンジニアなど専門性を持った各人が集まることで、コスプレを高いレベルへ昇華させることができるだけでなく、高価な素材を共同購入することで金銭的な負担を軽減することもできます。

コスプレを通じて実感する、ロシアから日本への愛

――コスプレをするにあたって、特に人気の作品はありますか。


関屋 かつては、作品の人気度で選ぶ傾向があったので、『NARUTO』や『BLEACH』のコスプレイヤーが多く見られましたね。これらの作品は日本という非日常の世界観を感じさせてくれるので人気が高かったんです。2008年にロシアで正式にマンガが刊行されたこともその人気を後押ししました。
 ですがその後、『トリニティーブラッド』や『コードギアス』、『黒執事』が人気を博すようになりました。これらの作品に登場するキャラクターのコスチューム製作には高い技術を要します。よってそれを見事に再現したコスプレイヤーはコンテストでの入賞が約束されていました。コスプレイヤーが存分に腕を振るうことができる、日本の緻密なキャラクター設計と描写も人気を集めた理由のひとつでしょう。
 近年では、他がまだ手をつけていないレアで面白いキャラクターをインターネット上でいち早く見つけ、コスプレする傾向が生まれています。日本のコンテンツは情報が早く豊富で選択肢が多い、というのも好まれている理由だと思います。


――ロシア人の皆さんをコスプレに駆り立てる、その魅力はどこにあると思われますか。


関屋 思うに、コスプレとは自分の潜在的な可能性を引き出してくれるものなのではないでしょうか。また、新しい自分を発見するとともに、コスプレイベントをきっかけにコスバンドに入り、親友や恋人を見つける例も珍しくありません。彼・彼女たちにとって、かけがえのない社会とのつながりであるとも言えます。コスプレは、重要なSR(Social Relationship=社会との結びつき)のツールとしても認識されています。
 またロシア人は、わりあい競争意識が強く、コスプレに対しても極めて真剣に取り組んでいて、コンテスト前の舞台裏は驚くほどピリピリした空気が漂っています。だからこそ、勝ち取った栄誉はコスプレイヤーにとって大きな誇りと自信に繋がるのでしょう。
 そして、ロシアが「WCS」に参戦してわずか3年。ロシア代表は「WCS 2014」で見事優勝を果たし、世界一という称号を手にしました。
 この偉業が今後ロシアのコスプレ界をさらに盛り立て、日本のロシアに対する関心を引く原動力となることを私たちは期待しています。


――イベントを通じて、何か特別に感じたことはありますか。


関屋 イベント主催者は、参加者に最高のパフォーマンスとコミュニケーションの場を提供するのが役割であると思います。私たち主催者も、イベントの準備には一年をかけて多くのスタッフが取り組みます。そのイベントにコスプレイヤーが全力で応えてくれたときに味わえる感動は忘れることができません。それが主催者にとっても最大の魅力であると感じます。日本がロシアに愛されていると実感する瞬間です。

コスプレを通じて、日本文化を世界へ

――今後もイベントを開催していくにあたって、展望があれば教えてください。


関屋 「HINODE」は世界コスプレサミットにロシア代表を送り出すという重要な役割を担っています。しかし、それを私たちだけで抱え込んでいては将来性は薄いでしょう。このことを受け、2013年に私たちは各地域のコスプレイベント主催者とパートナーシップ「HINODE FAMILY」を締結しました。2014年時点で17地域が参加しており、各地方で選出されたNo.1が「HINODE」に集結して、さらにロシアNo.1を決めるのです。この取り組みは今後も拡大させていくつもりです。
 こうした仕組み作りによって、地方イベント側には動員増加などのメリットが生まれると同時に「WCS」や「HINODE」の認知度もあがっています。さらに、イベントのブランド力を高めることで「HINODE」を支援いただくスポンサー企業への訴求力を高め、より高質で、規模の大きなイベントを仕掛けていけるようになると思っています。
 来年は「HINODE」の会場を変更して、2日間にわたってイベントを開催する予定です。単にコスプレイベントとして向上させるだけでなく、日本文化を幅広くロシアに紹介するイベントにシフトさせていきます。そのためにも世界中にロシアのイベントを知ってもらおうと、ストリーミング放送などインターネットの活用も進めています。 日本のアニメ・マンガ・ゲームなどのコンテンツ、衣服、食事、文化、思想、教育、マナー、これらすべてがロシアの人々を魅了するものであり、友好関係の構築に大きな役割を果たしてくれます。「HINODE」がその機会創造の場となり、より多くのロシア人を惹き付けるイベントに育てていけたらと強く願っています。


※文中に掲載されているphotoはすべて、ロシアのコスプレイベント「HINODE」のものです。

【参考資料】 (作成:関屋智弘)

ロシアのコスプレ専門イベントの規模

小規模 中規模 大規模
動員 50 〜 100 100 〜 1,000 1,000 〜 3,000
頻度 毎週 年1
客層 7 〜 10代 10代 〜 30代前
価格 200ルーブル程度 300 〜 800ルーブル程度

ロシアのコスプレイベントで人気のあるコンテスト

  • 1.デフィレ(DEFILE)

    1名〜3名程度が1分間の曲にあわせて、ステージでショートパフォーマンスを行う。アニメとゲームではコスチュームの製作難度に差がある、という理由でコンテストを分けているところが多い。

  • 2.寸劇(SCENKA)

    後述のグループ単位で参加。5〜10名程度(なかには20名を超えるグループも)で、10分くらいの劇を披露。笑いを誘うコメディ劇が人気。

  • 3.ダンス(ASIA MUSIC DANCE)

    日本や韓国のダンスグループの踊りを再現またはオマージュ。近年ではK-POPの影響が色濃い。

  • 4.フォトコスプレ(PHOTOCOSPLAY)

    コスプレモデルとフォトグラファーの共同作品。撮影だけでなくパソコンで画像処理を行い、より原作の世界観を表現しようとする傾向がある。

  • 5.ファンアート(FUN-ART)

    写真ではなく、漫画やイラスト作品。

  • 6.カラオケ(KARAOKE)

    歌うだけでなくバックダンサーをつけたり、コスプレしながらデフィレの要素を交えてパフォーマンスをしたり、工夫をこらしたカラオケも見られる。

PROFILE

関屋智弘せきや・ともひろ

1978年生まれ。2003年、株式会社ティーエムユーコンサルティング入社。ロシアの拠点開設に伴う法務、会計、人事、不動産などのコンサルティング、海外の顧客向けに日本の市場調査、企業や不動産などの斡旋、ビジネス研修プログラムなどを行う。2010年、有限会社イ・エヌ・インターナショナル入社。2014年、常務執行役員就任。前職務を継承しつつ日露文化友好活動に従事。2011年よりコスプレイベント『HINODE』の企画運営に参画。

http://www.hinode.asia

http://www.e-n-inter.jp


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