スペシャルレポート Vol.4 日本人の知らない日本コンテンツの魅力

 今年はじめ、日本政府観光局(JNTO)は、2013年の訪日外客数が過去最高の1036万4千人となったと発表した。同局が1964年に統計を開始して以来、1000万人を突破したのは初めてのことで、これまで過去最高であった861万1千人(2010年)を大きく上回った。外国人観光客はいったい日本のどんなところに魅力を感じているのだろう? 27年間日本に滞在し、訪日外国人向けの日本情報サイト「DEEP JAPAN」のプロデューサーを務めるルース・ジャーマン・白石さん(ルーシーさん)にお話をうかがった。

外国人が知りたいのは、日本人自身が好きなもの

「いま、日本の文化を取り巻く状況は節目に来ているような気がします。外国人は日本のことを知りたくてしょうがない。日本人は売り出したくてしょうがない。そのマッチングをいかに適切に行っていくかが重要。いわゆる観光地だけではない、日本の商品や風習に見られるさまざまな面白いところ、すごいところを外国人が理解しやすいように発信していかなければならないと思うんです」

 ルーシーさんが関わる日本情報サイト「DEEP JAPAN」(http://www.deepjapan.org/)は、2013年8月に発足した。同サイトは、「SENPAI(先輩)」と呼ばれる長期滞在の外国人および海外移住経験のある日本人が、自己体験を通じて発見した日本に関する「好き」を発信していくというもの。個人の眼差しでテーマやモチーフが選ばれるため、そのバリエーションは観光情報から食や文化情報まで幅広い。まさに、ディープな内容なのだ。

「外国人の気に入りそうなものを売っていきたい、と多くの方は考えるかもしれませんが、実はそれは違っていて、私たち外国人が知りたいのは“日本人の好きなもの”なんです。だから私たちは、外国人が好きそうなものではなく、自分自身が好きなものをとことんディープに説明しよう、という姿勢で進めています。そしてそれは、マンガやアニメなどのエンタメコンテンツにも共通して言えることで、日本の国民投票の結果を海外へ発信していくやり方は、その情報を受け取る外国人の立場から見ても、とてもマッチした試みだと思います」

 ハワイ出身のルーシーさんは、幼いころから日本のアニメに触れてきた。また、年々増えていく日本人観光客を目の当たりにして日本語を学ぶ重要性を実感したという。

「日本のコンテンツは強いですね。これはゲームの話になりますが、『ロックマン』(英語版名称は『メガマン』)は海外で、特にドイツで大人気なんですよ。実は私、英語版の初代ロックマンの声優をやらせていただきまして。今でも『あなたがロックマンの声優なんですね!』とフェイスブックに書き込んでくださるファンの方がいます。25年前のことなのに、今でも熱い想いを持っていて、さらに若い人たちの間でも変わらず人気がある。その継続力は素晴らしい。日本には、日本人の気づいていない魅力と可能性がたくさんあります。自分たちの目を通して『いい』と思ったものを、自信をもって外国に届けてほしいですね」

日本人しか持っていない“切なさ”という感情

「日本のマンガやアニメは、ある決まったパターンを守っているところに魅力があります。それは、完全なる善悪にわかれるのではなく、弱さや悪の要素も持っている主人公が、葛藤しながら戦い勝利するというもの。過程には多くの理不尽や哀しみ、絶望もありはするものの、最終的にはどこか希望を残して終わる。そうしたスーパーヒーローとは違う等身大の主人公に親近感を持ちやすいというのもありますし、もっと言うと、そんな物語に私たちは『ハートが打たれる』のです。
 『NARUTO‐ナルト‐』は世界的に大人気の作品ですが、これも、主人公のナルトが体内に怪物を宿していて、そのために苦悩するという背景がありますよね。この作品の大ファンである、レバノン出身の友人いわく『どんな宗教にも通じるモラリティ(道徳)がある』と。ハンデや弱さを抱えながら、それでも懸命に頑張って外とも内とも戦い前に進もうとする。そういうところに、人間の根源的な深さ、人生の旅のようなものが描かれていて、それが魅力なのだと言っていました。この作品が世界的に受けいれられ、人々のハートを打つ理由がよくわかると」

 ハートが打たれる、というのは、「感動する」というよりもっと深いところで胸が締めつけられるような、いわゆる「切なさ」のようなものだろうか。

「そうですね。missともsadとも違う、独特の感情だと思います。英語には“切ない”という感情を表す表現はないし、もしかしたら私たち英語人は、切ないという気持ちに対してそこまで敏感じゃないのかもしれません。もちろん同じ人間なので、抱く感情は同じですが、その国ごとに文化のどこに重点が置かれるかは異なります。たとえばアメリカでは自立心や勇気、リスクテイキングといったものが重視されますが、日本では“語られないこと”が実は一番大事、という風潮がありますよね。私も何度かアニメの『NARUTO』を観ましたが、全体的にセリフが少ないという印象を持ちました。ナルトの孤独を、言葉で『さみしい』とか『つらい』とか表すのではなく、観ているうちに自然と伝わってくる。そうしたところに私たちのハートは強く深く打たれるんです。
 子供のころ、ハワイではアニメ『人造人間キカイダー』が大流行しました。吹きかえられていないどころか字幕もなく、言葉も何もわからなかったのに、私たちはみんななぜか虜になりました。主人公のジローが変身して悪の組織と戦う、その構成がわかりやすかったし、かっこよかった。けれどそれと同時に、屋根の上でさみしげに一人ギターを弾くジローの姿に心が揺さぶられました。たぶんそれが切ないということだったんでしょうね」

 ジローの場合は、敵が笛を吹くと「良心回路」が混乱してしまい、悪の指令に従いかけてしまう。ヒーローなのに善と悪の間で苦しむというジレンマも切なさを強くしたのかもしれない。

「……実はそれ、今の今まで知りませんでした(笑)。ああ、それで笛を吹かれるとジローは頭を抱えていたんですね。てっきり敵の攻撃で耳が痛いんだとばかり(笑)。27年間日本にいて、日本語もある程度わかるようになっているのに、これまで気づけなかった。 でもね、このことはとても大きなヒントですよ。まずひとつは、言葉での説明がなくても、背景をしっかり理解していなくても、“絵”の力だけで心が打たれてしまうほど、日本の物語には力がある。そしてもうひとつは、物語をより深く解体していくことで、どれほどより深く外国人の心を打つことになるだろうか、ということです」

必要不可欠なのは、作品の解体作業

「私が『日本人が世界に誇れる33のこと』という本を書いたとき、日本人が無意識に日常的に行っていることが、こんなにも外国人が良いと思ってくれるのか、という点が意外だったようで大きな反響をいただきました。でもまだまだそういうすごいところが、日本には死ぬほどたくさんありますよ、ということを伝えたい。でも実は、われわれ外国人が、日本の文化を知る手段というのはあまりありません。お蕎麦の正しい食べ方ひとつとっても、英語でガイドしてくれるお店は少ないですよね。だから薬味をつゆに入れずにそのまま食べてしまう人もいますし、先日回転寿司に外国人の友人と行ったときは、抹茶の粉をわさびと勘違いして醤油に溶かしていました。まちがった知識のまま『おいしくない』という印象で終わってしまうのは、とてももったいない。そんな外国人のために、私たちはDEEP JAPANで日本に関するさまざまなハウツーを提供しているわけですが、もうひとつ、もっと必要になってくるのが、日本の文化を“解体”することなんです」

 それはもちろん、マンガやアニメをはじめとするエンタメコンテンツにも同様に言えることだ。あまりに当たり前すぎて日本人でさえ気づいていない魅力を、丁寧に紐解いていく。それは単なる作品解説にはとどまらない、文字どおり解体作業なのだ。

「京都で銀閣寺を見るとき、もちろん外観だけでも美しいということはわかりますが、釘を使わない職人の技だとか、なんのために建てられたもので、どんな歴史を持っているのかとか、そうした背景を知れば知るほど、どれだけ貴重で素晴らしいものなのかがわかり、より感銘を受けることができます。それと同じで、たとえば『となりのトトロ』も世界的に大人気ですが、私たちにもそこに姉妹愛が描かれていることはわかりますし、トトロという不可思議でかわいい生き物が自分の前にも現われてほしい、猫バスに乗ってみたい、とも思います。ですが、宮崎監督が描く青い空の色を見て日本人にはそれが夏だとわかるということ、夏の情景が日本人の郷愁を誘うのだということは、言われなくてはわかりません。お母さんの不在そのものが日本人にとって切ない光景であり、たとえばアメリカのドラマだったら「お母さんはいつ帰ってくるの?」と子供たちが何気なく聞くだろうところを、宮崎作品の子供たちはたくさんのことを思いやって、淋しさを見せないようにしながら毎日を笑顔で過ごしている、そしてその穴を埋めてくれるのがトトロという存在なのだということ、そうしたことを知れば知るほど、私たちはよりその作品のすごさや面白さを感じることができるんです。もちろん説明なんていらない、という人もいるとは思いますが、それでもあったほうがいい。そのアピールが日本ではまだまだなされていなくて、逆に言えばそこに、もっと外国人を虜にしていく可能性があるのだと思います」

 理解することでより面白さを体感できる。日本の文化になじみのない人々へ、そのきっかけづくりをすることが肝要で、見落とされているものがたくさんあるとルーシーさんは語る。

「20年前の日本人は、ハワイというとワイキキくらいしか知らなかった。けれど今や、私も知らないようなマウイ島の小さな町に別荘を買っていたりする。何度となく訪れているうちに、奥へ奥へと入っていったわけです。これと同じことが日本でも起きていると思うんですよ。これほど治安もよく綺麗な国は珍しいので、一度訪れた人は必ずまた来たいと思う。日本文化をもっと知りたいと思う。そういう人々に、さらなる奥底を見せてあげるためには、繰り返しになりますが解体作業が必要です。
 『切ない』と同じで、どれだけ翻訳の精度を高めても伝わらない言葉というものが存在します。ですがそれをマンガやアニメが持つ、絵や映像の力で補い、さらにそこへ解体作業を組み入れることで、私たち外国人も背景を知っていくことができる。そうすると、原作や同じモチーフの小説も読んでみようと興味をもちやすくなると思うんです。日本文化は深い海のようで、知れば知るほど魅力の深みにはまっていく。でもいま、外国人が見ているのはほんの一メートルくらいの浅いところ。さらなる深みを見せてあげてほしいですね。
 また、これも見過ごされがちなのですが、1000万人もの観光客が来日しているということは、彼らが潜在的な顧客になりうるということ。日本の作品が海外に輸出されたとき、日本ですでにそれを目にした人が『あ、知ってる!』と手にしてくれる可能性は非常に高い。つまり彼らは、究極のモニターなんです。日本を訪れる外国人を対象とした、インバウンドの国際化も視野に入れつつ、日本のすごさをもっともっと伝えていってほしいですし、私たちもDEEP JAPANを通じて伝えていきたいと思っています」


(2014年7月22日、白金台にて/取材・文=立花もも)

PROFILE

ルース・ジャーマン・白石ルース・ジャーマン・しらいし

米国ノースカロライナ州生まれ、ハワイ育ち。タフツ大学(ボストン)を卒業後、株式会社リクルートに入社。以来、20年以上日本に滞在している。訪日外国人向けの日本情報サイト「DEEP JAPAN」(http://www.deepjapan.org/)プロデューサー。NHK英会話講座『しごとの基礎英語』に出演中。また、欧米人として初めて日本の宅地建物取引主任者の資格を取得しており、自身が経営する株式会社ジャーマン・インターナショナルにて、外国人向けのサービスアパートメントや住宅の仲介サービスなどを展開。著書に『日本人が世界に誇れる33のこと』(あさ出版)など活動は幅広い。

日本のポップカルチャー好き外国人に聞いたYOUはどんな日本作品を「SUGOI!」と思う?

  • Alex Kobayashi(カナダ出身/USA在住)

    僕が好きなのは『鋼の錬金術師』。日本のマンガやアニメは、想像力を喚起させる素晴らしい作品だと思う。映像やイラストの美しい作品も多いし、精神性も高い。だからこそ、これほど多くの人々が日本のポップカルチャーに惹きつけられるのだと思う。

  • B.J.(USA出身/日本在住)

    ハワイにいた頃『名探偵コナン』が好きで観ていたけど、日本のアニメだなんて知らなくて、日本でマンガを見つけて驚いた。もともとシャーロック・ホームズが好きなんだけど、コナンはクールだしミステリーとして面白い! 最近マンガを日本語で読みはじめた。すべての漢字にルビもついているし、日本語の勉強にはもってこいだと思う。

  • Hassan Lahifi(レバノン出身/日本在住)

    僕はマンガとアニメのせいで日本にいるといっても過言じゃない。ベスト3は順番に『NARUTO』『BLEACH』『ONE PIECE』。特に『NARUTO』は第2部の「疾風伝」に入ってからが素晴らしい! 歴史や哲学、宗教、あらゆる観念が詰まっていて、読めば読むほど深みにハマっていく。

  • Austin Anthony Auger(USA出身/日本在住)

    もうずいぶん昔になるけど、『サザエさん』や『おそ松くん』のマンガを読んでいた。その頃は日本に住んでいて、たまたま本屋で見かけたんだと思う。何度読んでも面白いし、「シェー!」の彼はとても印象的。

  • Linda Schnetzer(USA出身/日本在住)

    まだ日本語がそんなに読めないのが残念だけど、『美味しんぼ』はすごく面白い。私の大好きな日本食がたくさん出てくるし。アメリカに住む甥と姪は『ポケモン』と『ドラえもん』が大好き。

  • Oliver Dwyer(UK出身/USA在住)

    好きなマンガは、『あさきゆめみし』『バガボンド』『進撃の巨人』など数え切れないほどある。マンガだけでなく、音楽やミュージックビデオ、ゲームなど、日本のポップカルチャーに共通していえることだけど、作品はどこか不可思議で奇妙にさえ感じる。でもその奇妙さが文化と結びつき芸術を生み出している。たとえばきゃりーぱみゅぱみゅのように。そういうところが私は大好き。

  • John Sawaguchi(USA出身/USA在住)

    日本の作品は、西洋化されつつも日本の文化・伝統を保持しているところがとてもよいと思う。たとえば『NARUTO』『DARKER THAN BLACK』『TRIGAN』などはとてもよい作品だと思う。